記事: 本当に自社製ムーブメントが最強なのか?「インハウス」「プロプライエタリー」「エボーシュ」の違いを理解する
本当に自社製ムーブメントが最強なのか?「インハウス」「プロプライエタリー」「エボーシュ」の違いを理解する
まずはこちらの画像をご覧ください。

こちら分かりやすいように、8つの有名ブランドがそれぞれどこのポジションに位置するかを表している表です。
ほとんどの方が知っているであろうブランドを出していますが、ここで見て欲しいのは左から2行目の現行の主文類ですね。
上から5個はインハンス、これは自社製を意味します。
その下にプロプライエタリー、これは半分自社製を意味します。
その下に汎用エボーシュが2社ありますが、これは社外品を意味します。
ほとんどの方は、『自社製ムーブメント』という響きに、かなり良い印象を持たれると思います。
例えば「インハウスは高級で偉い」「エボーシュは安物」などと単純に語られることもありますが、実際にはもっと奥が深く、歴史やブランドの戦略とも密接に結びついています。
今回の動画では、これらの区分けが意味する部分を詳細に解説して参ります。
そして、その理解が進んだ後に、それぞれの違いを整理し、さらにどんな基準でムーブメントを見ればよいのかまで掘り下げます。
知っていると時計選びの見方が変わり、一本一本の背景に新しい発見があるはずです。
最初に一言だけご連絡させて下さい。
この動画が少しでも役に立ったら、次の一本はベルモントルでご検討して頂けると幸いです。
ご相談やご購入が、発信を続ける力になります。
もちろん見に来るだけでも大歓迎です。
では話を進めて参ります。
エボーシュとは?

ここに出しているブランドは、エボーシュのムーブメントを採用しているブランドの一覧です。
エボーシュとは、時計業界で長く使われてきたムーブメント供給の仕組みを指します。
スイスでは19世紀から20世紀にかけて、ムーブメントを専門に作る会社と、それを購入して仕上げる時計ブランドが分業体制を築いてきました。
エボーシュメーカーは時計の基本構造、つまり輪列や香箱、地板といった「心臓の骨格部分」を製造し、それを各ブランドが買い取ります。
その後ブランド側は自社で仕上げを行ったり、精度調整や装飾を施したりして、自社の時計に組み込んでいました。
昔の代表的なエボーシュメーカーとしては、ジャガールクルト、ETAやレマニア、ユニタス、クロノグラフムーブではヴィーナス、レマニアなどが知られています。
今はセリタが大きな影響を与えていますが、その前はETAでありETAは20世紀後半からスウォッチグループの中核を担い、ロレックス以外の多くのブランドが、その供給に依存していました。
エボーシュの強みは、まずコストと効率のバランスにあります。
ブランドが自社ですべて開発すると莫大な資金と時間が必要ですが、エボーシュを活用すれば高品質なベースを安定的に調達でき、外装やデザインにリソースを割けます。
さらに、供給元の技術力が高ければ、信頼性やメンテナンス性にも優れた時計を作ることが可能です。
ただしデメリットもあります。
多くのブランドが同じムーブメントを使うため、差別化が難しく「このブランドならではの個性」が出しづらいという点です。
そのため、仕上げの工夫や自社での改良が重要になります。
1990年代には、市場に出ている腕時計の90%がETA社製のムーブメントが搭載されていましたので、ETAポンなんて言われていましたが、これは個性がないことを揶揄した表現だったんですね。
エボーシュを理解すると「量産品だから価値が低い」という短絡的な見方がいかに的外れかが分かります。
なんならヴィンテージウォッチの場合は、エボーシュムーブメントが搭載されてる方が評価が高いですからね。
その時代を代表する技術や歴史の文脈を背負った重要な要素であり、コレクションの楽しみを広げてくれるものなのです。
エボーシュムーブメントがいかに凄いのか!?
というのは、これらの動画の中で詳細に解説しておりますので、気になる方はこちらからご覧くださいませ⬇️
概要欄に入れておきますね。
プロプライエタリー(Proprietary)とは?

ここに出しているブランドは、プロプライエタリーのムーブメントを採用しているブランドの一覧です。
プロプラは、エボーシュとインハウスの中間に位置する考え方です。
エボーシュのように外部から供給を受けつつも、そのムーブメントにブランド独自の仕様や改良を盛り込み、自社専用として扱う仕組みを指します。
つまり「完全な自社製ではないけれど、市場に出回る汎用品とも違う」状態をつくる方法です。
もっと分かりやすく言うと、エボーシュの上位互換って認識でいいと思いますね。
このスタイルは、とくに20世紀後半から21世紀にかけて多くのブランドに採用されました。
なぜなら、インハウス化には膨大な開発費と長い時間が必要ですが、プロプライエタリーであれば既存のエボーシュを基盤にするため効率的に独自性を出せるからです。
代表例として挙げられるのがチューダーです。
かつてはETAを搭載していましたが、現在はケニッシ社と共同開発した自社専用ムーブメントを使っています。
これは他ブランドと完全に同一ではなく、設計や仕上げの一部にチューダーらしい仕様を持たせることで、信頼性とコストのバランスを保ちながら独自性も確保しています。
プロプライエタリーのメリットは、ブランドにとって「効率的に顔を作れる」点にあります。
エボーシュのように他ブランドと全く同じにならず、かといってインハウスほどのリスクも背負わない。
特に中堅ブランドにとっては、コストを抑えつつ差別化を進められる現実的な選択肢なのです。
ただし、課題も存在します。
ベースの構造は外部依存であるため、完全な独自技術とは言いにくく、コレクターから「結局は改良エボーシュ」と捉えられてしまうこともあります。
それでも、時計を日常で使うユーザーにとっては「信頼性と独自性のバランスを取った合理的な仕組み」として十分に魅力的です。
むしろ現代では、このプロプラ型が最も現実的で、多くのブランドに受け入れられている方式といえます。
つまり、インハウスを誇るトップメゾンと、汎用エボーシュを使うブランドの間を繋ぐ架け橋として、プロプラは重要な役割を果たしているのです。
インハウスとは?
ここに出しているブランドは、インハンスのムーブメントを採用しているブランドの一覧です。
しかし、動画の冒頭でインハンスとして出したブランドとは違うブランドを出しています。
インハウスは定義が曖昧ので、ここのパートはしっかり解説してまいります。
一口に「インハウス」と言っても、ブランドによってその中身はまったく違うからなんですね。
インハンスであると表現するための大事な定義は、この4つのポイントで分けて考えることです。
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誰が設計したのか?
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どこで製造したのか?
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どこで組み立て・仕上げをしたのか?
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他のブランドにも部品を供給しているか?
この4つを意識するだけで、ブランドの本当の実力が見えてきます。
例えば、表の1、2番目のロレックスを考えてみましょう。
彼らは、設計から製造、組み立て、そして仕上げまですべてを自社で行う、まさに「完全自社一貫」のブランドです。
この場合は「設計=ロレックス/製造=ロレックス/組立・仕上げ=ロレックス/供給範囲=自社専用」という風に表現できます。
でも、同じ「インハウス」と呼ばれるブランドでも、表の1番下のヴァシュロン・コンスタンタンのCal.1326の場合はどうでしょう?
これは「設計=VC(ヴァシュロン)/製造=ヴァルフルリエ(グループ工場)/組立・仕上げ=VC/供給範囲=グループ内」となります。
ロレックスと同じく「自社系」ではあるんですが、製造はグループ会社に頼んでいるんですね。
他にも、カルティエのCal.1904やCal.1847も同じです。
「設計=カルティエ/製造=ヴァルフルリエ/組立・仕上げ=カルティエ」と、製造部分がグループ内工場になっています。
これはオメガも同じで、製造はグループ内のETAがやっています。
こんな風に分けてみると、同じ「インハウス」でも、ロレックスやパテックのような「社内垂直統合型」と、リシュモンとカルティエとヴァルフルリエのような「グループ内製造型」は全然違うことがわかりますよね。
ちなみに表には出していませんが、社内垂直統合型は日本のSEIKO、シチズン、パルミジャーニ・フルリエ、H・モーザー、ランゲゾーネもそうです。
どちらが優れているということではなく、そのブランドがどんな思想で、どんな体制で時計を作っているかがはっきりと見えてくるんです。
カルティエやオメガも全て自社一環で作りたいのでしょうが、グループに入っていれば必然的にスケールメリットを活かさないといけませんので、グループ内製造型に落ち着きます。
この違いを理解しておくと、時計を選ぶときの判断材料としてもすごく役立ちます。
技術がひとつの会社に集約されているのか、それともグループのスケールメリットを活かしているのか。
これは、将来のメンテナンスや部品の供給、そして価格にも大きく影響してくるんです。
ちなみに表の中にあるオーデマピゲですが、設計と製造を子会社のオーデマピゲ・ルノーエパピに任せています。
ルノーエ・パピについての詳細をご希望の方は、こちらからご覧ください⬇️
インハンスであることのメリットデメリット
インハウスはマーケティング面で強力な武器になる反面、デメリットも存在します。
「自社開発ムーブメント」という言葉は消費者に高級感や信頼感を与え、価格の正当性を裏付ける理由としても使われています。
一方で、インハウスには大きな課題も存在します。
まず、膨大な投資が必要です。
ムーブメントの開発には数年単位の研究期間と専門技術者が不可欠で、その費用は莫大になります。
さらに、開発したムーブメントが必ずしも実用的で優れているとは限らず、不具合や改良のために追加コストがかかることもあります。
また、部品調達から組み立てまで自社で抱えるため、生産効率が低下するリスクもあります。
このため、インハウス化はブランドの規模や資金力、長期的な戦略があって初めて実現可能な取り組みなのです。
ブランド側は莫大な開発費用を先行投資しているために、腕時計の価格にそのまま転嫁していますが、我々はただのステンレスの塊を高額で購入している・・・・と錯覚してしまいます。
しかしそうではなく、その裏側にあるブランドの覚悟にお金を払わないといけないのです。
インハウスを選ぶ理由は明確です。
それは「ブランドの顔」となるためですね。
他ブランドとの差別化を図り、独自の存在感を示すには、やはり自社で作り上げたムーブメントほど説得力のある要素はありません。
そのためインハウスは、単なる技術的選択肢を超えて、ブランドの姿勢や哲学を体現するシンボルとして位置づけられているのです。
ブランドの中にあるモデルでも搭載ムーブメントは違う
時計を選ぶときに見落としがちなのが、「同じブランドでもモデルごとに搭載されるムーブメントが異なる」という点です。
一つのブランドが、すべてインハウスで統一しているわけではなく、ラインによってはプロプライエタリーやエボーシュを使うこともあります。
例えば、カルティエを例に挙げると、ハイエンドのコレクションでは自社製のインハウスキャリバーを搭載する一方で、入門ラインにはエボーシュも多く見られます。
この場合、同じカルティエというブランド名が付いていても、「中身の仕組み」がまったく異なるわけです。
ヴィンテージウォッチのムーブメントの評価基準
ヴィンテージウォッチでは、基本的に他社製ムーブメント(エボーシュ)が搭載されています。
それは当時の分業体制の成果であり、むしろそれが「良い時計の条件」になりうる要素です。
その理由は3つあります。
第一に信頼性です。
当時の定番キャリバーは長年の実績があり、故障事例への知見も豊富です。
第二に整備性です。
流通量の多い汎用キャリバーは、部品供給や互換パーツの選択肢が広く、修理のハードルが低い傾向にあります。
第三に歴史的価値です。
レマニアやバルジュー、ジャガールクルト、フレデリック・ピゲなど名門のエボーシュは、その時代の最高技術の水準を保有していました。
評価時は「インハウスか否か」より、 キャリバーの履歴と格を見ることが重要です。
採用ブランドの格上げに寄与した名機か、当時の用途に適した設計かを確認します。
結論として、ヴィンテージでは「他社製=減点」ではありません。
整備性と歴史的価値、真贋の確かさ、個体の状態が揃っていることこそが、長く満足できる一本を選ぶための本質的な基準になります。
どんな基準でムーブメントを見ればいいのか?
インハウス、プロプライエタリー、エボーシュという3つの方式を理解したうえで、実際に時計を選ぶときに、どのように判断すればよいのでしょうか。
ここで大切なのは「どこに価値を感じるか」を自分自身に問いかけることです。
まずブランドの物語や哲学を大切にしたい人にとっては、インハウスが魅力的です。
自社開発のムーブメントは、そのブランドがどれだけ技術や思想にこだわっているかを示すものだからです。
一本の時計を通じて、ブランドの姿勢を体感できるという意味で、コレクションの中でも特別な存在になりやすいでしょう。
一方で、実用性とコストのバランスを重視するなら、プロプライエタリーが現実的な選択です。
毎日の使用に安心して選べる点は、多くのユーザーにとって大きな利点となります。
さらに、時計の歴史や文化に魅力を感じる人にはエボーシュがおすすめです。
エボーシュは分業体制の中から生まれた仕組みで、ヴィンテージの世界では数々の名作を支えてきました。
同じムーブメントを複数のブランドが使っていたとしても、それぞれの仕上げやデザインの違いを楽しめるのはエボーシュならではの魅力です。
つまり、ムーブメントを見る基準は「高級かどうか」ではなく「自分がどこに魅力を感じるか」です。
この視点を持つことで、時計選びは単なる物の比較ではなく、自分自身の価値観を映す楽しいプロセスへと変わっていくのです。
ムーブメントの背景を知れば、時計を見る目が変わり、より豊かな体験が得られるはずです。
ここまで動画をご覧になっていただけてる方は、きっと丁寧に時計を選びたい方だと考えております。
まだ次の1本が見つかってないけど、いつも動画で勉強させてもらってるしなぁ・・・
せっかくならベルモントルで購入しようかなぁ。
と考えて頂けた方は是非ともご相談ください。
一緒に自分に合った1本を探していきましょう。