ジャガールクルト、ヴァシュロンコンスタンタン、オーデマピゲ、パテックフィリップの共通ムーブメント
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ジャガールクルトと最も深い関係にあるヴァシュロンコンスタンタン
ジャガールクルトは自社で全てを製造することができるマニュファクチュールとして今でも有名ですが、特にムーブメントを作るのは非常に技術力が必要でそれを古くから実現できていることが、ジャガーが評価されている理由です。
そんなジャガーとヴァシュロンの関係なのですが、これは1930年代に起きた世界大恐慌まで遡ります。
ヴァシュロン社の顧客は富裕層がメインであり、大恐慌の煽りをダイレクトに受けた富裕層は、ヴァシュロン社の腕時計も購入することが出来ず、それと同時にヴァシュロン社の業績も落ちていくことになります。
そこでヴァシュロン社を救ったのが、ジャガールクルトであり1938年に吸収合併するという形で、資金注入が行われたのでした。
これはただ単に救ったというわけでなく、ジャガーの条件付き買収であり、その内容はヴァシュロン社の腕時計には、ジャガーのムーブメントを搭載させる比率を一定数以上にするというものでした。
この吸収合併は1965年まで続くのですが、そういった背景があって世界3大時計ブランドの中でもジャガーとヴァシュロンは一層深く結びついていたと言えいます。
現在もリシュモンの中では、密接に結びついてますからね。
よって、古いヴァシュロンのモデルにはジャガーとスタイルが似ているモデルがたくさん存在するんですね。
ちなみに、ジャガーに吸収されたことは結果的に良かったと言われています。
というのも、1930年代のヴァシュロンはメイン事業はまだ懐中時計であり、腕時計をそこまで作っていませんでした。
しかし、ジャガールクルトは腕時計も作っており、出遅れ感があったヴァシュロンは強制的に腕時計にシフトせざるを得なかったからなんですね。
といった感じで、ここまでがジャガーとヴァシュロンの関係になります。
では次にオーデマピゲとパテックとジャガーを見ていきましょう。
オーデマピゲ、パテックフィリップはヴァシュロンほどの深い関わりはないものの、基本設計が薄型のドレスウォッチと相性が良く、品質の良いムーブメント製造会社を探して行った時に必然的にジャガーが出てきます。
その結果、2社ともジャガールクルトのムーブメントを採用するようになりました。
これが大体1970年代の話で、ちょうどセイコーのアストロンが誕生してクオーツショックが起きた頃の話ですね。
安価なクオーツウォッチと勝負するという選択は、世界3大時計ブランドには存在せず、これまでの機械式腕時計にどれだけの価値を与えることが出来るのか?
というのが、雲上ブランドの課題でした。
そこで各社とも自社ではなく、デザイナーに腕時計をデザインしてもらい、ムーブも品質が高いにも関わらず、大量生産する実績を持っていたジャガーのムーブを載せよう!
ということで、ラグスポが誕生しこれらは安価なクオーツウォッチとは対角にある、高級腕時計であったために直接対決にはならなかったんですね。
まぁ対決はしてなくても、クオーツショックの煽りは相当受けたんですけどね。
といった感じで、深いつながり順に並び替えると
1.ヴァシュロンコンスタンタン
2.オーデマピゲ
3.パテックフィリップ
といった感じでしょうね。
ではここからは、そんなジャガールクルトと3社のムーブメントの比較をしていきましょう。
3社それぞれのムーブメントを見ていこう
この表の見方を簡単に解説します。
一番左がムーブメントのタイプで手巻きか自動巻かってことですね。
そして上段のムーブメントタイプの右を解説していくのですが、これはそれぞれのブランドのキャリバーナンバーです。
ジャガールクルトがベースにあって、そのムーブメントはヴァシュロンとオーデマであれば、何番になっているかを表しています。
例えば、ジャガールクルトのCal.818はヴァシュロンのcal.1001であり、オーデマではCal.2001ということですね。
そして、一番右の欄はそのムーブメントの簡単な説明となっております。
このように表にまとめているのですが、こうやって見てみると5つのムーブメントが3社で共通で使われており、ジャガーを中心としたチームになっているのが分かります。
ちなみに、ジャガールクルトのキャリバーナンバーで言うところのCal.818,819,803はヴァシュロン、オーデマ専用みたいになっててジャガーに搭載されている実績はほとんどありません。
さらに専用になっているのが、この後に紹介するCal.920なのですが、これがパテックが唯一採用したムーブメントであるために、パテックと一緒にこのムーブメントについても解説しますね。
話を戻しまして、それぞれのムーブメントを見てみましょう。
では3つのムーブを比較していくのですが、一番左がジャガーで真ん中がヴァシュロン、一番右がオーデマですね。
基本的には全部同じようなムーブメントに見えると思います。
ぱっと見で分かる所は、腕時計の文字盤で言うところの1〜2時位置のブリッジが1枚板か2つに分けてあるか。
ってところでしょうかね。
ジャガーのムーブメントは1枚板で取り付けられているのに対して、ヴァシュロンとオーデマは2つのパーツで押さえてあります。
ブリッジを分割する目的なのですが、一番大きいのは美観性の問題ですね。
1枚板で抑えるよりも美観が美しくなりますし、逆にここを分割しないと世界3大時計ブランドなのにコレ!?
って感じでがっかりさせちゃいますからね。
もちろん、分割にした方がコストは高くなりますが、それ以上に美観を向上させることは大切なんですね。
機能的な役割としては、一枚板のブリッジに比べ、分割されたブリッジは局所的に力がかかる部分を支える構造に適しています。
これにより、ムーブメントの強度を適切に確保し、長期的な耐久性を高めることが可能です。
分割されたブリッジを使うことで、振動や衝撃の影響を効率的に分散し、高い耐久性が期待できます。
同じようなムーブメントだけど、こういったところを差別化していくことで、価格が大きく変わってくるんですね。
では次に実際にそれらが載せてある腕時計の文字盤を見ていきましょう。
こちらが先ほどのムーブメントを載せた腕時計なのですが、これといって特別な特徴があるわけではありませんね。
表面からでは、普通の手巻き時計ということしか分からないし、どのムーブメントが載っているか?というのは、裏蓋を開けて初めて分かることでしょう。
他のムーブメントも同じような感じなので、残りのムーブメントについては割愛いたしますね。
といった感じで、ジャガールクルトのムーブメントと2社のムーブメントの比較してきましたが、ここからパテックフィリップも含めた3社の共通ムーブメントCal.920を見ていきましょう。
ジャガールクルトCal.920が果たした役割
クオーツショックに対抗するために、雲上ブランドは時計デザイナーであるジェラルドジェンタにデザインしてもらい、発売当初は不発だったものの、その魅力が広まりロイヤルオークとノーチラスは大成功を収めることになります。
ヴァシュロンからは、Ref.222(トリプルツー)が誕生しラグスポを意識して作られていますが、実際には不発だったと言えるでしょう。
ちなみにこちらは、ハイゼックという方がデザインしており、ジェンタがデザインしたものではありません。
その進化形のオーヴァーシーズは大ヒットしていますよね。
はい、といった感じで外装はジェンタの力を借りたのですが、ムーブメントはジャガーの力を借りてこれらの腕時計は完成しています。
そんな最強ラグスポモデルの心臓部に当たる自動巻Cal.920を見ていきましょう。
ではこちらの画像をご覧ください。
これらはジャガールクルト社製Cal.920をベースに、世界3大時計ブランドのムーブメントナンバーとその代表モデルを表しています。
代表モデルに先ほど紹介したそれぞれのブランドのラグスポを入れていますが、この表から分かることは、パテックフィリップもジャガールクルトのムーブを採用しているという事実です。
このように、ジャガー・ルクルトのCal.920は、超薄型自動巻きムーブメントとして、同社の視点でも雲上時計ブランドの視点でも最も重要なキャリバーだと言えます。
まず、このムーブメントがなければ、1972年に発売されたオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」Ref.5402STや、1976年に発表されたパテック フィリップの「ノーチラス」Ref.3700/1Aといった時計は生まれてなかったことでしょう。
このムーブメントがあったから、大きいサイズのケースと薄型の絶妙なバランスが実現し、これらの時計に独自の魅力が生まれたのです。
Cal.920で最も知っておいて欲しい話は、このムーブメントがジャガー・ルクルトによって設計・製造されたにもかかわらず、ジャガー・ルクルト自身は使用せず、世界3大時計ブランドにエボーシュ(エボーシュとは未完成のムーブメントのことですね)として供給されたことです。
では実際にそれぞれのムーブメントを見ていきましょう。
世界3大時計ブランドが結構ゴリゴリに装飾を入れてるので、ぱっと見ではなかなかその共通部分は見えにくいと思いますが、9時から12時位置までのパーツを比較するのが一番わかりやすいですね。
これらのムーブメントで共通していることは、ローターの縁に21Kゴールドが備えられていることです。
すでにご存知の通り、より比重の重い貴金属である『金』を外側に置くことで、巻き上げ効率を向上させるのが目的です。
テンプはジャガーのが少し分かりにくいですが、ジャガーのテンプは普通のテンプで、そのほかはジャイロマックステンプが採用されています。
これがあることで、より精密な時間調整ができるんですね。
このように各ブランドはこのムーブメントを購入し、自社の個性を加えてチューニングと装飾を施し、それぞれの独自のスタイルで完成させました。
Cal.920は、標準サイズのローターを搭載したムーブメントとしては世界で最も薄い自動巻きムーブメントであり、現在でもその地位は変わりません。
それぞれのブランドのモデルを詳細に見ていこう
では最後に、これらのムーブメントを搭載しているそれぞれのモデルを見ていきましょう。
オーデマピゲ ロイヤルオーク
オメガとレマニアの歴史が密接に結びついてるように、キャリバー920との歴史が最も深く結びついているブランドがあるとすれば、それは間違いなくオーデマ ピゲです。
前述の通り、オーデマ ピゲが設計したCal.2121(ジャガー・ルクルトのキャリバー920)によって、「ロイヤル オーク」は39mmのケース径と厚さ7.2mmの薄さを実現しました。
やっぱりこのラグスポ時代に誕生した腕時計といえば、コレって感じですし、それが今となっても大ヒットしているというのはもう時計業界の中でも凄すぎますよね。
ロレックスはロングヒットは様々なモデルで存在しますが、オーデマの場合はロイヤルオークとその派生系で売り上げの8割を出してるんではなかろうというくらいに、ロイヤルオークが主役感がありますよね。
パテックフィリップ ノーチラス
1976年にジェラルド・ジェンタが手がけた初代「ノーチラス」なのですが、4年前に発売されたオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」に搭載され、成功を収めていたため、パテック フィリップも同じムーブメントを採用することを決めたのかもしれません。
その結果、ノーチラスは直径42mm、厚さわずか7.6mmの薄型ケースを実現しました。
次期型のRef. 3800/1Aには、新たに開発された自社製ムーブメント「Cal.335 SC」が搭載されており、中央秒針と日付機能を備えた直径37.5mmのダウンサイジングしたモデルとなりました。
ヴァシュロンコンスタンタン Ref.222
ノーチラスの誕生から1年後の1977年、ヴァシュロン・コンスタンタンは創業222周年を記念し、「222」という名のモデルで参入しました。
ロイヤル オークやノーチラスを手がけたジェラルド・ジェンタには依頼せずに、当時の若手デザイナーのヨルグ・ハイセックにデザインを任せました。
このモデルは37mmと34mmの2サイズで展開されたのですが、それぞれは厚さ7.2mmで作られジャガー・ルクルトのCAl.920をベースとしたCal.1120を搭載しています。
これにより、「222」もとても美しいデザインに仕上がっています。
私的には同じ時期に出ていたIWCのインジュニアに近いのかなぁと感じています。
ですが、このモデルは他の2つが圧倒的すぎたためか、控え目に言っても不発となってしまいました。
しかし、1996年に「222」の進化系である(正式に言えば進化ではありませんが)「オーヴァーシーズ」を発表し、こちらのモデルは今にも続く大ヒットモデルになっていますよね。
そしてこのオーヴァーシーズには、より厚いフレデリック・ピゲ製ムーブメントが搭載されています。
といった感じで、4社についての関係を解説してきたのですが、どのブランドも素晴らしいことに間違いはありません。
ジャガーのムーブメントは高品質だから選ばれますし、そこに胡座をかかずに雲上ブランドもしっかりチューニングと装飾を施すことで、また別格のムーブメントに生まれ変わっています。
今となっては、もう自社生産のムーブメントとなっていますが、こういった感じでムーブのことはムーブの専門家に任せて、そのほかの部分をしっかり作り込むスイスの伝統的な腕時計作りも私は好きです。
今でこそジャガーはまぁまぁ広告で見かけるようになりましたが、まだまだなんか微妙なポジションですよねぇ。
本当はめっちゃ凄いブランドなのに、ブランドネームが弱いせいで実力に見合った評価を受けてない代表ブランドだと考えています。
世界3大時計はマーケティングもしっかりしてますし、ほとんど人は1度は聞いたことがあるでしょうが、ジャガーもオメガくらいの認知度を獲得してほしいとずっと思っています。