リシュモングループ内での序列はどうなってる?ブランド売上高ランキング
こんにちは、ベルモントルの妹尾です。
本日は『リシュモングループ内での序列はどうなっている?ブランド売上高ランキング』という内容でお話しして参ります。
カルティエ、ヴァシュロン コンスタンタン、IWC、ジャガー・ルクルトといったブランドが、同じリシュモンという一つのグループの傘下にあることは、ご存じの方も多いかと思います。
ただ、その中でどのブランドがどれくらい稼いでいて、どのブランドが苦戦しているのかという序列については、意外と語られる機会が少ないんですよね。
今回は、Morgan Stanleyという大手証券会社がまとめたリシュモングループの内部分析データをもとに、時計専業ブランドたちの売上高ランキングを、9位から1位まで順番に見ていきます。
名門ブランドと呼ばれる存在の裏側で、実際にはどんな数字が動いているのか。
このランキングを知ることで、腕時計を選ぶ際の視点が一つ増えるはずです。
腕時計というのは本来、値段やブランド名だけでは、その一本が本当に納得できるかどうかは、決まらないんですよね。
その一本が持つ背景まで見えてきたときに、初めて『これだ』と思える自分の一本に出会えるんですよね。
そういった自分だけの1本をお探しの方は、是非とも青山にある店舗までお越し下さい。
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それでは話を進めて参ります。
リシュモングループ 2026年のデータと全体像
今回ご紹介する数字は、リシュモン社自身が毎年公表している決算資料と、モルガン・スタンレーという証券会社が発表しているリシュモングループの分析レポート、この2つを組み合わせたものです。
実は、リシュモンという会社は、グループ全体の売上高や、ジュエリー部門・時計部門といった大きな括りでの数字は公表していますが、カルティエやヴァシュロン コンスタンタンといったブランド単体の売上高は、2013年以降ほとんど公表していないんです。
そこで登場するのが、モルガン・スタンレーによる推定値です。
流通データや店舗網の情報、長年にわたる業界取材を積み重ねて、ブランドごとの売上高や利益をかなり精緻に逆算した数字なので、あくまで推定ではあるものの、業界内でも広く参照されている信頼度の高いデータだといえます。
今回はこの推定値をもとに、実際に腕時計を作り、腕時計を売っているブランドという切り口で、9位から1位まで並べてみました。
対象となる決算期は、2025年4月から2026年3月までの直近1年間です。
歴史や技術力で高く評価されているブランドが、実は売上規模では中位から下位に位置していたり、逆に知名度がそこまで先行していないブランドが、実は圧倒的な稼ぎ頭だったりするんですよね。
ではまずはこちらの画像をご覧ください⬇️

では9位から順に読み上げていきます。
9位:ロジェ デュブイ
売上高:非公開(Morgan Stanleyの推計値でも数値が示されていない、部門内最小規模)
8位:ボーム&メルシエ
売上高:約175億円(今年の1月にイタリアのグループに売却されたので今はグループに入ってません)
7位:A.ランゲ&ゾーネ
売上高:約450億円(営業利益率13.6%、時計専業部門で2番目の収益性)
6位:パネライ
売上高:約578億円(新品・中古市場ともに構造的苦戦)
5位:ピアジェ
売上高:約651億円
4位:ジャガー・ルクルト
売上高:約971億円(技術力は高いが収益化に苦戦)
3位:IWC
売上高:約1,045億円(店舗数を3倍に拡大しても売上は減少という逆説)
2位:ヴァシュロン コンスタンタン
売上高:約1,691億円(時計専業部門営業利益の125%を単独で稼ぐ実質エース)
1位:カルティエ(腕時計事業のみ)
売上高:約6,388億円(2位の3.8倍、時計専業部門8ブランド合計をも上回る圧倒的規模)
それでは、9位から順番に、それぞれのブランドの詳細な実態を見ていきましょう。
9位〜7位 ― グループを去ったブランド、存在感の薄いブランド
まず9位に位置するのが、ロジェ デュブイという腕時計メーカーです。
複雑機構を得意とする硬派なブランドですが、モルガン・スタンレーのレポートでも単体の売上推定値すら示されておらず、部門内で最も規模が小さいブランドだといえます。
続いて8位は、ボーム&メルシエです。
2026年1月に売却が合意され、同年7月にイタリアのダミアーニ・グループへの売却が完了し、1988年から続いた38年間の歴史に幕を閉じているんです。
アナリストの推計では年間売上高は8,800万米ドル前後(約136億円)で、赤字運営が続いていたとも報じられており、エントリーラインという価格帯の厳しさを物語っています。
そして7位に位置するのが、A.ランゲ&ゾーネです。
売上高は450億円と他社と比較すれば、決して大きな規模ではありません。
ただし営業利益率は13.6%という健全な水準を保っており、時計専業部門の中では2番目に稼ぐブランドとして評価されています。
規模の小ささと収益性の高さが同居しているという、この後登場するブランドたちとは少し違った立ち位置にあるんですよね。
数を追わず、一本あたりの価値を高めるという戦略が、しっかりと数字にも表れているブランドだといえます。
これは前回解説した、パテック、オーデマの戦略と近いので、時代の流れにあったスマートな売り方だと思いますね。
派手さはなくとも、じっくりと腕時計と向き合ってきたブランドだからこそ持てる強さだと感じます。
9位から7位までを見てきただけでも、同じグループの中でこれほど明暗が分かれているという事実に、驚かれた方も多いのではないでしょうか。
グループの看板を背負っているからといって、すべてのブランドが安泰というわけではないんですよね。
では次にいきましょう。
6位・5位 ― 明暗が分かれた、対照的な2ブランド
続いて6位に位置するのが、パネライです。
売上高は約578億円で、新品市場・中古市場の両方で構造的な苦戦が続いているブランドだといえます。
2000年代に一世を風靡した大ぶりケースのブームを牽引した存在でしたが、近年はルミノールというシリーズの型数が飽和状態にあることや、リサイクル素材を使ったeSteelやサブマーシブル エルックスといった新しいラインへの反応が期待ほど伸びなかったことが、苦戦の背景にあるとされています。
実際に、二次流通市場のデータを見ても、パネライの平均再販価格は前年比で約8%下落しているというデータがあり、これは新品側の勢いの陰りが、中古市場にもそのまま反映されている形なんですよね。
2000年代に「大きい腕時計こそが正義」という空気の中で選ばれてきたブランドだけに、腕時計の主流サイズが徐々に落ち着きを取り戻している今、ポジションの立て直しを迫られているといえます。
この大きい腕時計こそが正義主義の終焉については、こちらの『パネライとかウブロ等のデカアツ腕時計に疲れてしまった全ての人たちへ』の中で詳細に解説しておりますので、気になる方はご覧ください⬇️
続いて5位は、ピアジェです。
総売上高は約651億円で、腕時計専業というより、超薄型ムーブメントの技術力を軸にしながら、ジュエリーメゾンとしての顔も併せ持つ、少し特殊な立ち位置のブランドなんですよね。
日本では新品のピアジェの話はあんまり聞きませんが、世界では意外に売れてるんだねぇってのが私の正直な感想ですね。
興味深いことに、同じ二次流通市場のデータでは、ピアジェの平均再販価格は前年比で30%を超える上昇を記録しており、パネライとはまったく逆の動きを見せています。
薄さと上質さを追求してきたブランドの佇まいが、近年の落ち着いた腕時計を求める流れと重なり合っている結果だと捉えることができそうです。
派手な主張をせず、着けている本人と、わかる方にだけ伝わる上質さというのが、ピアジェというブランドの本質なんですよね。
1874年の創業以来、宝飾と時計づくりの両方を手掛けてきたという歴史も、この独特なポジションを支えている要因の一つだといえます。
同じグループの中でも、時代の空気を追い風にできるブランドと、逆風にさらされるブランドとで、これほど明暗が分かれるというのは、腕時計選びにおいても示唆に富む事実なんですよね。
では次にいきましょう。
4位・3位 ― 名門ブランドたちの"稼げない"構造
続いて4位に位置するのが、ジャガー・ルクルトです。
売上高は約971億円で、業界内でも「時計師の時計師」と呼ばれるほど、技術力の高さでは屈指の存在として知られています。
モルガン・スタンレーのレポートでは、この技術力の高さが十分に収益へと結びついていない、いわば「実力の割に稼げていない」ブランドだと指摘されているんですよね。
モルガン・スタンレーだけでなく、世界中の誰もが同じことを考えてると思うんですけどね。
私的には、ジャガールクルトという会社のマインドが昔のままの縁の下の力持ち感からまだ脱却出来てないと思います。
要するに、日本も陥ってる『良いもの作ってれば勝手に売れるでしょ』みたいな部分がまだ抜けてないのかなぁといったところです。
そもそもがマニュファクチュールでしたし、ものづくりは素晴らしいのに、それをちゃんと世間に認知してもらおうとするマーケティング力がまだまだ弱いのかなぁって感じですよね。
続いて3位は、IWCです。
売上高は約1,045億円と、ジャガー・ルクルトをわずかに上回りますが、ここには興味深い、そして少し残念な事実があるんですよね。
IWCは2016年の時点で86店舗を展開し、売上高は約1,225億円ほどありました。
それが2026年には238店舗まで、実に3倍近くまで店舗網を拡大したにもかかわらず、売上高はむしろ約1,050億円まで減少しているんです。
店舗を増やせば売上も伸びるという、事業拡大の王道パターンが、このブランドではまったく成立しなかったということになります。
高い賃料を払って一等地に出店したにもかかわらず、それに見合うだけの販売効率が伴わなかったことが背景にあるとされており、拡大戦略そのものの難しさを物語る事例となっています。
店舗を増やすという行為自体は、ブランドの体力があってこそできることではあるんですが、それが必ずしも売上の増加に直結するとは限らないという、腕時計業界における一つの教訓のようなものが、ここには詰まっているといえます。
どちらのブランドも、腕時計としての実力や歴史に疑いの余地はないからこそ、この数字はより一層考えさせられるものがあります。
では次にいきましょう。
2位・1位 ― ヴァシュロン コンスタンタンと、圧倒的王者カルティエ
続いて2位に位置するのが、ヴァシュロン コンスタンタンです。
売上高は約1,691億円で、時計専業部門全体の売上のおよそ31%を、このブランド一社だけで占めているんです。
さらに驚くべきは営業利益で、ヴァシュロン単体の営業利益は約235億円にのぼり、これは時計専業部門全体の営業利益の実に125%に相当する数字なんですよね。
この躍進を支えたのが、2017年から2024年までCEOを務めたルイ・フェルラ氏の存在です。

※ヴァシュロン・コンスタンタンCEO ルイ・フェルラ
就任当初約665億円だった売上高を、在任中に1,750億円超まで、実に3倍近くまで伸ばした手腕が高く評価され、2024年、フェルラ氏はグループの稼ぎ頭であるカルティエのCEOに抜擢されています。
数を追わず、一本あたりの価値を高めるという戦略を徹底し、平均販売価格を約800万円近くまで引き上げたという実績は、腕時計としての価値と経営としての強さを両立させた好例だといえるんですよね。
そして、いよいよ1位です。
1位に輝いたのは、皆様ご存知の通りカルティエでした。
腕時計単体の売上高は約6,388億円にのぼり、これは2位のヴァシュロンの実に3.8倍という規模なんですよね。
さらに言えば、この金額はスペシャリスト・ウォッチメーカーズという先ほど紹介した8社の腕時計専業部門全体の売上高、約5,511億円をも上回っているんです。
つまりカルティエという一つのブランドが、他の8ブランドすべてを合わせた金額よりも、多くの腕時計を売っているということになります。
販売本数で見ても、年間およそ69.5万本という規模で、これはロレックスに次いで世界第2位、オメガをも上回る数字だというのは以前の動画でも話しましたよね。
「カルティエはジュエリーブランドで、時計はついで」というイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、実態はもはや昔の話であって、隠れた時計の巨人だったというわけなんですよね。
ではなぜ、ここまでカルティエはここまで強くなったのか?
その答えは、他のブランドとはまったく異なる戦い方にあるので、そのことについて解説してまいります。
カルティエだけが持つ"意匠で稼ぐ"戦略
その答えは、他のブランドがムーブメントや複雑機構という「技術」で勝負しているのに対して、カルティエは腕時計の「意匠」そのもので勝負しているという、戦い方の違いにあるんですよね。
「意匠(いしょう)」というのは、簡単に言うとデザイン・見た目の形そのものという意味ですね。
タンク、ベニュワール、サントス、バロンブルー、パンテールといった、一目見ただけでカルティエだとわかる形を、それぞれ確立しているブランドなんです。
モルガン・スタンレーのレポートでも、カルティエは「精緻なムーブメントを追い求める路線から早い段階で離れ、意匠を売るブランドへと舵を切った」と分析されているんですよね。
このアプローチが際立つのが、ジュエリーラインの収益構造です。
ラブ、トリニティ、ジュストアンクルといった代表的なラインだけで、カルティエのジュエリー部門の利益の75%以上を稼ぎ出しているとされ、中でもラブは単体で年間1,750億円を超える売上を持つ、世界で最も売れているジュエリーラインの一つなんです。
金や宝石そのものの原価というより、「一目でカルティエとわかる」という認知そのものに価値が生まれているということなんですよね。
腕時計についても、まったく同じロジックが働いています。
タンク マストというエントリーモデルを約60万円という、若い方でも手が届く価格帯に設定することで、新規のお客様をブランドの入口に迎え入れているんです。
一方でジャガー・ルクルトやIWCは、複雑な機構や技術力そのものを訴求してきたからこそ、価格帯を下げにくいという構造的な事情を抱えているんですよね。
技術を突き詰めるほど、価格は上がり、届く方は限られていくという、皮肉な構造がそこにはあります。
複雑な機構を追い求めるのではなく、誰もが認識できる意匠を、手の届く価格で届けるという戦略が、結果として時計専業ブランドたちの合計を上回る売上へとつながっているというわけなんです。
腕時計を「機械」として売るか、「意匠」として売るか。
この違いが、これほどまでの差を生み出しているというのは、腕時計選びにおいても非常に興味深い視点だといえるんですよね。