ロイヤルオークだけでは埋まらない、パテック フィリップとの"格"の差
こんにちは、ベルモントルの妹尾です。
本日は「ロイヤルオークだけでは埋まらない、パテック フィリップとの"格"の差」という内容でお話しして参ります。
オーデマ ピゲのロイヤルオークといえば、ラグジュアリースポーツウォッチというジャンルを切り拓いた、時計史に残る一本なんですよね。
それでも、雲上ブランドという括りの中で語られる時、オーデマ ピゲはどうしてもパテック フィリップに一歩譲る立ち位置として見られがちなんです。
これほど強力なモデルを持ちながら、なぜその差が埋まらないのか。
本日はこの疑問を、デザイン哲学という切り口から紐解いて参ります。
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それでは話を進めて参ります。
ロイヤルオークが1972年に生まれた背景―"攻め"の決断とは何だったか?
まず振り返っていきたいのが、ロイヤルオークが誕生した1972年当時、業界にとってどれほど異例の決断だったかという点なんですよね。
1970年代初頭のスイス腕時計業界は、日本発のクオーツショックの足音がすでに聞こえ始めていた時期でして、高級腕時計というジャンル自体の存在価値が問われ始めていたんです。
こうした逆風の中で、オーデマ ピゲが選んだのは、守りに入ることではなく、むしろ攻めの一手を打つという道でした。
デザインを手がけたのは、当時まだ20代だったジェラルド・ジェンタというデザイナーでして、依頼を受けてからわずか一晩でデザインをまとめ上げたという逸話が残っているんですよね。
このロイヤルオークが革新的だった点は、いくつもあります。
まず一つ目が、素材の選択なんです。
当時、ステンレススチールというのは日常使いのカジュアルな腕時計に使われる素材であって、高級腕時計にステンレススチールを用いるということ自体が、業界の常識からすれば考えられない選択だったんですよね。
それにもかかわらずオーデマ ピゲは、このロイヤルオークにステンレススチールケースを採用し、しかも当時のゴールドモデルと変わらない価格帯で販売するという、かなり大胆な戦略を取ったんです。
二つ目が、一体型ブレスレットという構造なんですよね。
ケースとブレスレットが一体化したこのデザインは、それまでの丸型・薄型が主流だったドレスウォッチの常識を覆すものでして、八角形のベゼルとタペストリー模様の文字盤という組み合わせも、当時としては極めて異質な佇まいだったんです。
発表当初、この一本は決して好意的にばかり受け止められたわけではありませんでした。
高級腕時計にステンレスというコンセプトそのものに懐疑的な声も多く、価格の高さに対して素材が見合っていないという批判も一部にあったんですよね。
ですが結果として、このロイヤルオークはラグスポという、それまで存在しなかった新しいジャンルを切り拓く一本になったんです。
伝統的な複雑機構や貴金属素材による格式ではなく、スポーティな佇まいと高級腕時計としての作り込みを両立させるという発想は、後にパテック フィリップのノーチラスをはじめ、数多くのブランドに影響を与えることになりました。
つまりロイヤルオークは、業界の常識を壊すことでブランドの価値を証明した、まさに"攻め"の象徴といえる一本なんですよね。
この決断力と革新性は、今振り返ってみても本当に凄みがあると思います。
それでは、この"攻め"の姿勢に対して、パテック フィリップはどのような道を選んできたのか。
次の見出しで見ていきたいと思います。
パテック フィリップが"守った"もの―カラトラバに象徴される伝統墨守の姿勢
パテック フィリップというブランドを語るうえで欠かせないのが、カラトラバというモデルの存在なんですよね。
1932年に発表されたこのモデルは、その後90年以上にわたってほとんどデザインの本質を変えることなく作り続けられてきました。
シンプルな丸型ケース、控えめなベゼル、そして過度な装飾を排したダイヤル。
こうした要素は、一見すると地味に映るかもしれませんが、実はここにこそパテック フィリップの哲学が凝縮されているんですよね。
流行に左右されるデザインは、時代が変われば陳腐化してしまうリスクを常に抱えています。
ですがカラトラバのような普遍的なデザインは、10年経っても20年経っても、その価値が色褪せることがないんですよね。
これは偶然そうなったのではなく、パテック フィリップが意図的に選び取ってきた道だといえます。
実際、パテック フィリップの社内には長年にわたって「流行を追わない」という設計思想が根付いていると言われていまして、新作を発表する際にも、奇抜さよりも完成度の高さを優先する傾向が一貫しているんです。
この姿勢は、複雑機構の開発においても同様に貫かれています。
パテック フィリップのグランドコンプリケーションは、見た目の派手さで勝負するのではなく、ムーブメントの精緻さそのもので評価される作り込みがなされているんですよね。
ケースの外側からは分からない、文字盤の裏側に隠された機構美にこそ価値を置くという姿勢が、玄人筋からの絶対的な信頼を獲得してきた理由だといえるでしょう。
またパテック フィリップは、生産本数を意図的に抑え続けてきたブランドとしても知られています。
需要が高まっても、それに応じて生産量を大きく増やすことをせず、むしろ希少性を保つことを優先してきた経営判断が、現在の圧倒的なプレミア相場を生み出す土台になっているんですよね。
こうした"守り"の姿勢は、一見すると保守的で消極的な経営に見えるかもしれません。
ですが、これこそが「変わらないことに価値がある」という、腕時計という工芸品ならではの逆説的な強みを最大限に活かした戦略だったんです。
オーデマ ピゲが時代を切り拓く"攻め"の姿勢で存在感を示したのに対し、パテック フィリップは変わらないことを貫く"守り"の姿勢でブランドの格を築いてきたんですよね。
どちらも異なる方向から、高級腕時計というものの価値を証明してきたブランドだといえるのではないでしょうか。
次の見出しでは、この2つの哲学の違いが、実際にどちらを選ぶ方の心理にどう表れているのかを見ていきたいと思います。
デザイン哲学の違いが購入層にどう表れるか?
ここまで、ロイヤルオークの"攻め"とカラトラバに象徴される"守り"という、2つの異なる哲学を見てきました。
この違いは、実際にどちらを選ぶ方の心理や動機の違いとして、はっきりと表れるんですよね。
まずパテック フィリップを選ぶ方の傾向から見ていきたいと思います。
パテック フィリップを選ぶ方の多くは、伝統や格式そのものに強い共感を持たれている印象があります。
「変わらないことに価値がある」という考え方に納得感を覚え、流行に左右されない普遍的なデザインを、長く連れ添うパートナーのように捉える方が多いんですよね。
こうした方は、腕時計を単なるファッションアイテムとしてではなく、資産としての側面や、家族への継承といった長期的な視点で捉える傾向もあります。
購入の決め手として、ブランドの歴史や独立経営の一貫性、複雑機構への敬意といった、いわば"物語"の部分を重視される方が多いのも特徴なんですよね。
一方でロイヤルオークを選ぶ方は、また少し違った動機を持たれていることが多いんです。
ロイヤルオークという一本には、常識を壊すという挑戦の物語が刻み込まれていますから、この一本を選ぶ方は、自分自身も「型にはまらない」という価値観を大切にされている方が多い印象があります。
スーツスタイルにもカジュアルスタイルにも合わせられる懐の深さや、スポーティでありながら高級感を損なわないバランスの良さに惹かれる方が多いんですよね。
またロイヤルオークは、パテック フィリップと比べると、比較的若い世代からの支持も厚いモデルだといえます。
これは、"攻め"の姿勢そのものが持つ、時代を超えて新しさを感じさせる力によるものなんじゃないかと思います。
ここで大切なのは、どちらの哲学が優れているという話ではないという点なんですよね。
伝統への深い共感から選ぶパテック フィリップも、個性と革新性への共感から選ぶロイヤルオークも、それぞれが持つ物語に納得して選ばれているという意味では、どちらも等しく価値のある選択だといえます。
大切なのは、ご自身がどちらの物語により強く共感できるか、その一点に尽きるんですよね。
次の見出しでは、こうした哲学の違いが、ヴィンテージ市場における評価のされ方にどう反映されているのかを見ていきたいと思います。
ヴィンテージ市場における評価のされ方の違い
ここまで見てきた"攻め"と"守り"という哲学の違いは、ヴィンテージ市場における評価のされ方にも、はっきりと表れているんですよね。
まず流動性という観点から見ていきたいと思います。
パテック フィリップのヴィンテージ市場は、カラトラバをはじめとするドレスウォッチのラインから、ノーチラス、そしてグランドコンプリケーションまで、幅広い価格帯・幅広いモデルにわたって厚みのある取引が行われているんです。
これは、パテック フィリップが複数の柱を持つブランドであることの表れでもあって、どの価格帯であっても一定の需要が常に存在するという安定感につながっているんですよね。
一方でロイヤルオークのヴィンテージ市場は、パテック フィリップと比べるとやや違った動き方をします。
ロイヤルオークという一つのアイコンに人気が集中しているため、需要が特定のリファレンスや年代に偏りやすく、人気の個体とそうでない個体との評価の差が、パテック フィリップ以上に大きく開きやすい傾向があるんですよね。
つまり、目利きができる方にとっては、この価格差の大きさが仕入れの妙味にもつながる一方で、初めてヴィンテージを選ぶ方にとっては、少し判断が難しい市場だともいえます。
次に、個体差による評価の振れ幅について見ていきたいと思います。
パテック フィリップのヴィンテージは、オーバーホール履歴や文字盤のコンディションによる評価の差はもちろんあるものの、ブランド全体としての土台がしっかりしているため、極端な価格の乱高下は比較的起きにくいんですよね。
対してロイヤルオークは、初期モデルであるかどうか、ケース素材、文字盤のバリエーションによって評価が大きく変動しやすく、知識のある方とそうでない方とで、選ぶ一本の質に差が出やすい市場だといえます。
こうした特性を踏まえると、これからの市場動向としては、ロイヤルオークのヴィンテージは、真贋や個体差を見極める目利き力の重要性が、今後ますます高まっていくんじゃないかと考えています。
一方のパテック フィリップは、引き続き安定した資産性を求める方の受け皿として、堅調な評価を維持していくのではないかと思います。
次の見出しでは、ここまでの内容を踏まえて、ベルモントルとしての視点をお伝えしていきたいと思います。
ベルモントルの視点
ここまで、ロイヤルオークの"攻め"とパテック フィリップの"守り"という、対照的な2つの哲学を見てきました。
ベルモントルでは、この2つの哲学に優劣をつけるという発想は持っていません。
常識を壊し、新しいジャンルを切り拓いたロイヤルオークの挑戦にも、変わらないことを貫き通したカラトラバの姿勢にも、それぞれに深い敬意を持っているんですよね。
大切なのは、その方がどちらの物語により強く心を動かされるか、その一点に尽きると考えています。
弊社が腕時計をご提案する際も、"格"や相場だけでお話しすることはありません。
その一本が生まれた背景、選んだ方がそこにどんな想いを重ねられるのか、そうした部分まで含めてお伝えしたいと考えているんですよね。
攻めの物語に共感される方にも、守りの物語に共感される方にも、納得して選んでいただける一本をご提案してまいります。
数字や"格"の話は分かりやすい指標ではありますが、それだけで腕時計選びを終わらせてしまうのは、少しもったいないんじゃないかと思うんですよね。
ぜひ一度店頭で、両方の哲学を実際に手に取って感じていただけますと嬉しいです。