弊社で扱うマスト ドゥ カルティエ『タンク・ロンド・ヴァンドーム』などについて
弊社が提供する『マスト ドゥ カルティエ』について
この記事では、弊社が扱っている1970年代から作られていたヴィンテージウォッチ『マスト ドゥ カルティエ』シリーズの時計にどのような思いを持って、取り扱っているか、またそれに行き着くまでの試行錯誤をお話しさせて頂きます。
『マスト ドゥ カルティエ』シリーズの時計についてあまりご存知でない方は、こちらの動画で詳しく解説しておりますのでお時間のある際にご覧ください↓
昨今のヴィンテージウォッチ人気の影響で、多くのお客様がマスト ドゥ カルティエのコレクションの魅力をされているように感じます。
そんなヴィンテージウォッチなのですが、弊社ではその時計1つ1つと向き合いお客様に提供するよう努めております。
マスト ドゥ カルティエの特性について
70年代から製造がスタートしたマストシリーズなのですが、ケースは純銀『スターリングシルバー925』で作られその上から、ヴェルメイユといって18Kのゴールドを20μの厚さでコーティングしています。
金箔が0.1μですので、それを200枚重ねた厚さのメッキということになります。
このように下地の素材も、上のメッキも高級な素材が使われてあるにもかかわらず、デザイン性がよく小ぶりで使いやすいために、人気があるんですね。
ただし、残念ながら時計が製造されてから30〜40年近く経過しているために、時計にはほとんどの場合傷がついており、綺麗な個体を見つけるのが非常に難しいのが現状です。
そういった傷がある時計でも、綺麗に研磨すれば美しく甦るのですが先ほど説明した通り20μのメッキであるために、研磨を繰り返せば繰り返すほどにメッキはどんどん薄くなっていきます。
要するに、私たちの手に渡ってきている時計というのは、どれくらい研磨されているか分からないけど、限りなく素地に近い状態のものだというのは確かなのです。
再メッキの課題
このような理由から、傷を取るのと同時に再度メッキを施し美しい状態にした上で、それをお客様に提供することが弊社がやるべきことだろうと考えました。
そこからメッキをしてくれる会社を探し始めます。
メッキを専門とする会社は、日本にはたくさんあるのですが意外にも時計のメッキをできる会社は少なく、工房を探すのにかなりの時間を費やしました。
福岡、京都、大阪、などなど時計のメッキをしてくれそうな会社を調べて連絡はするものの、対応できないと言われそのままカルティエの時計を扱うことを辞めようかと思いました。
そんな中、東京でメッキをしてくれる会社があるということで、そこにお願いすることにしました。
そして、実際にメッキをお願いしてその時計が帰ってきました。
その時計は、素地が見えないほどに美しく輝きこの仕上がりだったら、お客様にお渡し出来ると思えました。
メッキの違和感
そんな感じで、時計を何本か出したところの中の1本に不思議な時計がありました。
その時計は、よくよく見ないと分からないのですがメッキの部分が変色しているのか、一部が少しだけ黒っぽく見えていました。
薄いのか、少し汚れているだけなのか確認するためにシルバークリーナーで磨いてみました。
ちなみに私は、西洋のアンティークも扱っておりフランスやイギリスの純銀のカトラリーも扱っていますので、クリーナーなどには他の人よりもかなり詳しいと自負しています。
こちらが私のアンティークショップになりますので、気になる方はご覧になられてください。
話は戻りまして、裏面の一部の色が違う部分をクリーナーで、サラッと拭いてみました。
すると、その部分はどうやらメッキが薄く素地のシルバーが見えてる状態で、その部分だけが薄いことによって、うっすら黒く見えてるという状態だと分かりました。
そして、その黒っぽく見える部分から外したところを少し磨いてみたのですが、こちらも軽く拭いただけで素地が見えてしまいました。
その時に写真は撮影出来なかったのですが、下記のは同じ現象が起きているカルティエの時計になります。
ケース自体の金メッキがかなり薄いのが分かって頂けると思います。
シルバークリーナーは、これまでにいろんな商品をたくさん試してきましたし、何よりほとんど研磨をしないことがカトラリーにおいては大切なので、1番綺麗になるし優秀なクリーナーを使いました。
そんなクリーナーを使ったにも関わらず、そのようになってしまったので、ここである疑問に行き着いたのです。
『そもそもこれは何ミクロンなんだろう?』
それと同時に、
『販売した時は、確かに金メッキは綺麗に見えるけど使い続けたときに多分使う頻度が多くないにも関わらず、素地が見えてくるだろうなぁ』
とですね。
実際にそれはどれくらいの薄さなのかは分かりません。
感覚的には、油性マジックくらいの厚さかなぁと考えています。
ですが驚くほどに、見た目は綺麗でぱっと見では薄いメッキだということは分かりません。
その会社は、メッキは安くやってくれるし納期も早いし、薄さの問題だけが引っかかっているポイントだったので、このままで良いのかもしれない・・・
別に中古品なんだし、そこまでこだわらずに売る時に綺麗であればそれで良いのではないか?
そのような思いが、何度も何度も頭の中を駆け巡りました。
本心を言ってしまえば、メッキをしてくれる会社に何度も問い合わせをして、やっと見つかったと思ったら条件が合わずに決裂して、というのを何度も繰り返していたので、もうそういったことをやりたくないというのが本音です。
もし、上記の体験をせずに何も知らなかったら私は多分、そのままの薄いメッキの状態で販売していたと思います。
しかし、そういった体験をして自分の販売する時計に自信を持てるかというと、自信を持って素晴らしい商品ですよ!とは言えないと思いました。
また、1からやり直しです。
再度メッキ工場を探して
とは言ったものの、実際の私は前回のメッキ工場を探すときにある程度探し尽くしてしまっていたので、そもそもどうしようかと、考える時間だけが過ぎ3ヶ月くらい何もしない期間がありました。
それから再度奮起し、これまでに連絡してきたメッキ工場を再度リストアップし、なんでここにお願いしなかったんだっけ?
という工場が1つ出てきました。
その理由は簡単で、メッキの値段が高かったからでした。
私がこの工場ではなく、東京の工場を選んでいたのは値段だったのです。
メッキに厚さがあることは分かっていたものの、実はその頃はまだ勝手に金であればある程度の厚さがあって、それだったら安いところにお願いしたほうが時計も安く提供出来ると安易な考えがあったからでした。
しかし、このような体験をしてきたことによってメッキ代が安いのには安い理由があって、高いところもそれなりの理由があるのではないかと考えるようになりました。
ここで私は、この会社にもう一度連絡して詳しい話を伺うことにしました。
そして今もお願いをしているその工場は、5μの金メッキが可能であるということを教えて頂きました。
値段が高いことは知っていましたが、その時だけ極薄メッキをしてお客様にお渡しするよりも、5μの厚塗りメッキをしたものをお渡しした方が、喜んでもらえるし長く愛用してもらえると考えました。
現在もお願いしている工場ですので、申し訳ございませんがここではその工場の場所などについては伏せさせて頂きますが、このような背景があって高品質の再メッキをしてくれる工場を見つけることが出来たのです。
私には商品に対して、明確な価値観があります。
それは品質が高い商品をお渡しすることが大切であることと、お客様は高い品質を求めているということです。
品質こそお客様の求めていることを理解して
母との色々な会話や母のふとした時の呟きの中で、忘れられない言葉というのがあります。
私の母は現在60歳なので、その年代以上の方はご理解して頂けると思うのですが、今では考えられませんがユニクロは昔は品質はあまりよくありませんでした。
確かフリースが出てくる前の時代だったと思います。
私が小学5〜6年生の時にはすでにユニクロはあったのですが、そのユニクロに母と一緒に買い物に行ったとき、私が試着室で洋服を着てる時に
『ユニクロも安物買いの銭失いやけんねぇ〜。』
と独り言を言ってるのが聞こえました。
私の家庭は、裕福でもなくごくごく普通の家庭だったのですが食材は他よりは少し高いグリーンコープでしたし、何かを買うときも品質に比重を置いて買っていたのは当時子供だった私でも分かりました。
皆様が同じような気持ちではないというのは理解しているのですが、特に女性の方は同じ思いを持たれてる方が多いのではないでしょうか。
時計から得られる自信とは
腕時計というのは、ただ単に時刻を確認するアイテムではありません。
それは、アンディ・ウォーホルが『身につける時計だから身につけたのだ。時間を計るためだけに使っているわけではない。』
と言ってることからも、どちらかというとそれ以外の要素が大きいはずです。
特に、時計は仕事している自分の目に入るからこそ、良いものを選びたいはずです。
重要なのは、自分に似合ってしっくりくるか、そこからパワーをもらえるか、目にするたびにテンションが上がるかどうかなどかだと思います。
それらを一言で表すと、『自信』ですね。
男性であれば、この腕時計してる俺かっこいい!と自分で思いますし、この時計をしてる俺は自信がみなぎって来ますよね。
その自信が仕事に繋がり、日々のパフォーマンスが上がり、それが仕事の効率の向上に繋がります。
女性の方であれば「これを身に着けている私は、他の人に気圧されたり、場に飲み込まれたり卑屈になったりすることなく、堂々と自信をもっていられるわ!」と自分で思えることを求めているのではないでしょうか。
そんな時計について、どんな価値観を持った会社で、どんな風に仕上げられてて、ヴィンテージだけれども新しく甦った時計というのが頭の中に入ってるか、そうじゃないかだけでもその自信というのは、大きく変わってくるのではないでしょうか。
まとめ
アンティークなどの骨董品を扱う店長が時計を扱うと、このようにどうにかその時計に命を吹き込んで甦らせることは出来ないか?
という奮闘のエピソードをお話しさせて頂きました。
このようなことをやって来たので、売り手側の私としても自信を持ってお客様に提供することが出来ます。
アンティークを販売している時にも、お話しするのですがヴィンテージウォッチも一期一会です。
弊社を探し出して頂いたこと、ここまで聞いて頂いたこと、どう感じて頂けたか分かりませんが、その先にだったらこの会社のマスト ドゥ カルティエを買ってみようかなぁ。
そう思って頂けたのであれば、これ以上の喜びはありません。