3分ショート スイスのインフレで高級腕時計バブルは崩壊するか?腕時計の物作りはどう変化するのか?
みなみさん
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-09-17/SJYDIVT0AFB400
冒頭のブルームバーグの記事のとこの読み上げは、スマホでその部分の文章をドラッグ&ドロップの見せ方で良いと思います。
スイスのインフレで高級腕時計バブルは崩壊するか?
ブルームバーグの記事を抜粋する。
スイスの腕時計メーカーは、海外販売の低迷を受け、輸出業者を支援するために自国通貨高を抑えるよう中央銀行と政府に求めた。
「インフレ率が現在2%を大きく下回っているため、スイス国立銀行(中銀)には為替市場で対応し、行動を起こす余地がある」と、スイス時計協会とスイス時計産業雇用者連盟は主張。
「臨機応変でより反応的なアプローチを取ることで、フランの変動を減らすことも可能になるだろう」と論じた。
スイスの腕時計メーカーは、高級腕時計の需要低下に苦戦している。過去3年間の出荷額は過去最高を記録したが、2024年1-7月の時計輸出額は2.4%減少した。一部のブランドや部品メーカーは、恒久的な人員削減を避けるために、政府支援による業務縮小に頼っているとブルームバーグ・ニュースが報じた。
この記事は概要欄に入れておくので、詳細はそこからご確認頂きたい。
要約すると、スイスの物価が高すぎるからフラン安に持っていってくれ!
ということである。
日本ではイメージできないが、物価が上がれば賃金も上がるし賃金が上がればその分を商品に反映させないといけない。
そうすると、スイスで作られる腕時計はさらに値上がりしていくから、売れにくくなるだろうという話である。
実際に現場ではどうなってるかと言うと、ご存知の通りここに2〜3年ずっと右肩上がりで腕時計の値段は上昇している。
年に3回、その都度3%とかの値上がりをしてるのだが、モデルによっては一気に10万円アップとか、信じられないくらいの上昇を続けてきた。
よって今となっては、基本的にはロレックスは普通のステンレスモデルは100万円前後が相場になっているし、カルティエもサントス ドゥ カルティエは既に100万オーバーだが、それと同じくらい人気なフランセーズ、アメリカンももう97万であり次の値上げで100万突破が見えている。
そしてインフレは、ただ単に値段が上がるだけなのだろうか?
答えはおそらく違うだろう。
スイスの1960〜70年代のムーブメントを見ていこう。
現代と過去を簡単に比較することは出来ないし、実際は今はそこを上手にやっているであろう!
という程で解説していく。
まず、1960年代に入ってからクロノグラフの手巻きムーブメントは、だいぶスタイルを変えることになる。
ではこちらの図をご覧頂きたい↓
この図の見方だが、左側が古くて右側が新しいムーブメントになっている。
一番上がヴィーナス社製Cal.178
ヴィーナスって会社のクロノグラフムーブメントで、1960年代のブライトリングのナビタイマーは大体ヴィーナスのムーブメントが入っている。
そして、その下がcal.178の進化系のCal.188で、その時にバルジューっていう別のクロノグラフムーブメントを作る会社に買収されたことで、キャリバーナンバーも変わりバルジュー社製Cal.7730となりる。
よって、ヴィーナス名ではCal.188でバルジュー名ではcal.7730ということで被らせている。
そしてその下が、このバルジュー7730を更に進化させたバルジュー社製Cal.7733が誕生する。
同じようなムーブメントが並んでるように見えると思うが、よく見たら違っており、その違いこそが今回の問題につながってくるところだぁ。
そもそも、なんでヴィーナスがバルジューに買収されたかというと、この頃もスイスの人件費が高騰してて、その固定費に耐えることが出来なくなって買収されている。
ここを頭に置いておいてください。
ではその作りを比較してみましょう。
まず一番上のヴィーナスcal.178とその下のcal.188の比較です。
この画像の赤丸で囲ってる部分を確認頂きたいのだが、これがコラムホイールとパーツである。
これら2つのムーブを並べたときに、最も大きな違いはコラムホイールが『ある』か『ない』かです。
左側はクロノグラフの動作をコラムホイールで制御するのに対して、左側はカムと言ってプレス整形で作ることができるプレートで制御している。
コラムホイールがどうとか、カムがどうとか話したら意味不明になると思いますので、ここではとりあえずコラムホイールは高級なんだなぁ、程度で理解して頂きたい。
こちらがコラムホイールなのですが、これは職人が1つ1つ丁寧に、柱の角度を調整していかないと作ることはできない。
要するに、人の手がかなり必要なパーツである。
その反面プレスでガッちゃんこして作れるカム式は、機械が動いてるうちは何発でも作れるので、そこに人の手は介入しない。
よって、この2つのムーブメントは、ぱっと見は同じに見えてもこれが完成するまでの金額は大きな開きが出てくるのである。
3分で話せる内容は、ここまでが限界であるためにこの先を知りたい方は、本編動画から確認いただきたい。
実際に現在も販売されている高級ラインのクロノグラフは、必ずコラムホイールが採用されています。
例えば、こちらはモンブランのリミテッドエディションなのですが、コラムホイールが入っています。
ちなみに入ってるムーブメントは、クロノグラフのムーブを設計製造することが出来たミネルバという会社のものが現代的にアレンジされて入っています。
次にこちらはパテックフィリップのRef.5172Gですが、こちらもカバーの下にコラムホイールが入っているのが分かりますよね。
実際には、コラム式かカム式かで動作が変わるということはありません。
ボタンを押した時のカチっという感触が、コラム式の方が心地良いだけです。
しかし、その感触を追求するからこそ高級ブランドや高級モデルは、コラムホイールを採用するのです。
現行のアルファードは、旧型と比較して静寂性がかなり向上してるらしいのですが、子供が3人いて常にうるさい状態の私のような素人はその些細な変化に気がつくことはないはずです。
でも、そこを追求しました!って言えば、その分価格に反映させることができるんですよね。
まぁ他にも色々品質は向上してるでしょうし、私はトヨタ大好きなんですがもうアルファードは欲しくても手が出ませんよね。
話を3つのムーブメントが映った画像に戻しまして、真ん中と一番右のムーブメントは、これらは違うというのは一目で分かって頂けると思います。
Cal.7733なのですが、大量に生産されたムーブメントなので、この年代のクロノグラフの半分はこのムーブが乗ってるんじゃないかなぁって思いますね。
この2つのムーブメントの大きな違いは、ブレーキレバーが追加されていることです。
これは簡単に解説すると、時計に衝撃が加わった時にクロノグラフの針が飛んでしまうのを防ぐ役割を持たせるパーツです。
バルジュー7730はその構造上、ブレーキレバーを搭載できなかったのですが、7733の設計に進化させることでブレーキレバーを追加できるようになりました。
とは言っても、それぞれのパーツはより機械が作る場所が増えたために、これまた製造コストが抑えられて作られているのです。
そして、これが手巻きの最後となり次期型のcal.7750に進化することになります。
ここまでの話の詳細はこちらの動画で詳しく解説しておりますので、気になる方はこちらの動画もご覧ください↓
といった感じで、人件費の高騰に対抗するためにどんどん簡素化させてムーブメントを作り上げてきたスイスのムーブメントなのですが、この手巻きクロノグラフ簡素化最終形態のCal.7733でも高級な部類に入れていいと思います。
というのも、自動巻でクロノグラフを動かすよりも手巻きでクロノグラフを動かす方が難しいし、手巻きクロノグラフの方が部品点数が多いからです。
現代で超高級モデル以外で、手巻きのクロノグラフが存在しないのは採算が合わないからなんですね。
古いムーブメントの方が、人の手が介入する場所が多く、より複雑に作られているってことですね。
現代のムーブメントは、古いものよりもかなり品質が向上していますし、防水も当たり前になっています。
しかし、このように腕時計自体の価格が高騰していく現代において、それは品質が向上したことで値段が上がっているのか?
ブランド力を保持するために上がり続けているのか?
というのは注意深く見ておく必要があるでしょう。