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記事: 『オーデマ ピゲ』と『ルノー・エ・パピ』天才時計技師集団を買収して得た複雑機構の頂点

『オーデマ ピゲ』と『ルノー・エ・パピ』天才時計技師集団を買収して得た複雑機構の頂点

動画で『オーデマ ピゲ』と『ルノー・エ・パピ』天才時計技師集団を買収して得た複雑機構の頂点をご覧になる方はこちらから⬇️

 

この記事では、『オーデマ ピゲ』と『ルノー・エ・パピ』天才時計技師集団を買収して得た複雑機構の頂点という内容で解説して参ります。

オーデマのことは知ってても、ルノーエパピはなんか聞いたことがあるなぁ・・・程度だと思います。

これら全く関係がなさそうな2社ですが、実は高級時計産業の技術開発の最先端を融合させたものです。

本日はオーデマ ピゲがこの独立系工房をなぜ手に入れたのか、そしてその後何が起きたのか?

時計業界の裏側で進行していた「知の買収」について、詳しく解説します。

 

 

 ルノー・エ・パピとは何者か?

ジュリオ・パピ氏とドミニク・ルノー氏

出典:https://monochrome

 ルノー・エ・パピ(Renaud et Papi)は、1986年にドミニク・ルノー(Dominique Renaud)とジュリオ・パピ(Giulio Papi)のふたりによって設立された、スイス・ル・ロックルを拠点とする独立系ムーブメント開発会社です。

ジュリオパピとドミニクルノーのルノーエパピ

彼らはともにオーデマ ピゲ出身のエンジニアであり、「複雑機構の未来をつくる」という明確なビジョンのもと、自らの名を入れたアトリエを立ち上げました。

その創業理念は、伝統的な時計製造の技術を継承しながらも、現代的な設計思想と革新的な素材を融合させ、“21世紀の複雑機構”を創出すること。

とあります。

オーデマピゲの中にいても、それが実現できそうではあるんですが、ここにはストーリーがあってオーデマの中にいれば色々な制約があって、なかなか自分たちの好きなように出来なかったそうです。

そして、オーデマの中にいれば超複雑時計を制作するのには20年以上の時間が必要だというのが分かり、それだったら独立してもっと早く技術革新を進めていこう。

との考えから2人で会社を立ち上げたという歴史があります。

創業間もない1989年、ルノー・エ・パピは早くも世界初の自動巻スプリットセコンド・クロノグラフの開発に成功し、業界にその名を轟かせます。

その後もトゥールビヨンやパーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーターといった伝統的な複雑機構の近代化に挑み、各ブランドのためにカスタムムーブメントを供給してきました。

彼らの最大の強みは、部品設計から組み立て、仕上げに至るまでを一貫して自社内で行う“マニュファクチュール的”な体制と、CADや3Dモデリングといったデジタル技術をいち早く取り入れた先進性にあります。

CADと3Dモデリングは当時としては、ムーブメント設計会社が導入するのは非常に稀なことでしたので、かなり先を行く工作機をこの時点で導入していたということですね。

しかも、ジュリオ・パピは「技術者であると同時に美学を追求する哲学者」として、デザインと構造の一致を強く意識した開発を行ってきました。

ルノー・エ・パピは事業を広げるための資金が必要となり、1992年にオーデマ ピゲに資金供給してもらう代わりに買収され、そこでオーデマピゲが筆頭株主になりました。

「オーデマ ピゲ ルノー・エ・パピ(Audemars Piguet Renaud et Papi、通称APRP)」として新たな体制に移行しますが、開発スタンスと独立性はそのままに維持され続けています。

そもそもがオーデマピゲのエンジニア部門出身者ですので、帰ってくる際にもそこまで違和感はなかったと思いますね。

ただ、ここが面白いのがオーデマピゲの傘下に入ってはいるものの他社の複雑機構ムーブメントの製造も行っていることです。

そのため現在でも、オーデマ ピゲだけでなく、リシャール・ミル、ハリー・ウィンストン、グレーベル・フォルセイ、カルティエなど数多くのブランドに対して超複雑機構の設計・製造を手がけており、スイス時計業界における「最先端の頭脳集団」として確固たる地位を築いています。

では次に、実際に他社に向けてどんなムーブメントを製造して来たのを見てみましょう。

 

ルノー・エ・パピが他社へ提供する複雑機構ムーブメント

ではここからは、そんな圧倒的な実力を持つルノー・エ・パピで設計製造されてきた素晴らしきムーブメントを見ていきましょう。

 

1. リシャールミル『Richard Mille』 向け:RM 001(初代トゥールビヨン)

リシャールミルRef.RM001

2001年に発表されたモデルがRM001であり、これはリシャール・ミルのデビュー作にして、現代時計界に衝撃を与えた記念碑的モデルです。

RM001に搭載されたのは、APRP製の手巻きトゥールビヨン・ムーブメントであり、キャリバーナンバーは公式には記載されていませんが、実質的にAPRPが特注で開発した超軽量かつ高剛性のムーブメントです。

主な特徴としては、チタン製プレートとブリッジが採用されており、ムーブメントの地板やブリッジには、航空宇宙産業で用いられるグレード5チタンを採用し、高い剛性と軽量性を両立し、耐衝撃性と安定性を実現しています。

単にスペックの高さを追求するだけでなく、F1マシンのような「究極の性能と軽量性、機能美の融合」を目指すリシャール・ミルの哲学を体現したものでした。

 

 

2. オーデマ・ピゲ向け:Royal Oak Conceptシリーズ

ロイヤルオークコンセプトCW1

2002年、オーデマ・ピゲはブランド創業125周年を記念し、前例のない未来志向のタイムピース「ロイヤルオーク・コンセプト(Royal Oak Concept)」を発表しました。

このシリーズは、単なる限定モデルにとどまらず、“ハイテク×伝統”を体現する実験場として、オーデマ・ピゲの技術力の粋を結集した存在です。

初代モデル「Royal Oak Concept CW1」に搭載されたムーブメント(Cal.2896)は、APRPが完全新規設計した手巻きトゥールビヨン+ダイナミックショックインジケーターという新しい機能を持っていました。

これは、時計が受けた衝撃を表示するインジケーターを備え、スポーツや航空宇宙分野での実用性を視野に入れた画期的な試みでした。

さらに、ケース素材にはアロイ系のフォージドチタンとアルミニウムセラミックなど、当時は高級時計では珍しかった素材が使用されてます。

外装とムーブメントの両面で、まさに“未来の時計”を目指すプロトタイプ的な位置づけだったのです。

 

 

3.カルティエ:トゥールビヨン クロノグラフ

ロトンド・ドゥ・カルティエ・トゥールビヨン・クロノグラフCal.9431MC

カルティエからは「ロトンド・ドゥ・カルティエ トゥールビヨン・クロノグラフ」です。

エレガントな外観に隠された、トゥールビヨンとフライバッククロノグラフという2大複雑機構の融合は、オートオルロジェリーの到達点とも言える作品でした。

このモデルに搭載されたムーブメントは、「キャリバー 9431 MC」でルノー・エ・パピ(APRP)との協業により開発された高性能キャリバーであり、APRPが設計・製造を担い、カルティエがその装飾と仕上げを行った特注品です。

このモデルは単なる複雑機構の見本市ではなく、「ジュエリーメゾンでありながら、最高峰の時計技術を実現できる」というカルティエの意思表示でもありました。

また、このモデルの存在は、「カルティエがなぜAPRPのような超専門工房と手を組んだか」を物語っています。

自社のラ・ショー=ド=フォンのマニュファクチュールで量産機構を構築する一方、最先端の複雑機構に関しては、信頼できる技術パートナーと共同開発するという“二刀流戦略”を採っていたのです。

と、こんな感じでAPRPのムーブメントは有名ブランドからもその実力を認められ、いろんなモデルに搭載されることとなったんですね。

では次に、オーデマピゲの視点でルノーエパピを買収した背景を見てみましょう。

 

 

なぜオーデマ ピゲは彼らを買収したのか?戦略的パートナーから“内製化の核”へ

1992年、オーデマ ピゲはルノー・エ・パピを買収し、自社グループ内に迎え入れる決断を下しました。

この背景には、スイス時計産業全体の構造的な変化と、同社の経営戦略が密接に関係しています。

まず1980年代後半、クォーツショックからの復活期にあったスイス高級時計業界では、伝統的な複雑機構の再評価が進み始めていました。

マーケットでは、高精度だけでなく、手仕事や伝統技術に裏打ちされた“本物”の時計への渇望が徐々に高まっていたのです。

これはオーデマピゲだけでなく、ブレゲの中にレマニア、ブランパンの中にフレデリックピゲが入ったように内製化が進んでいる時代でもありました。

レマニアとフレデリックピゲの詳細が気になる方は、これら2つの動画で解説しておりますので気になる方はご覧ください⬇️

その中でオーデマ ピゲは、単なるデザインだけではなく、機構そのものの独自性と美学を追求する路線へと舵を切ろうとしていました。

ちょうどその頃、オーデマ ピゲとルノー・エ・パピは技術提携を通じて複雑機構の共同開発を始めていました。

両者は「技術的探求心」と「審美的革新性」において共鳴し合い、ルノー・エ・パピの設計力と、オーデマ ピゲの製品化力が理想的な補完関係にあったのです。

しかし、オーデマ ピゲにとってルノー・エ・パピは単なる“下請け”ではなく、自社の技術アイデンティティを確立するために欠かせない存在となりつつありました。

そこで同社は、設計・試作・組立のすべてをグループ内で内製化するというビジョンを掲げ、完全買収に踏み切ったのです。

この買収により誕生した「Audemars Piguet Renaud et Papi(APRP)」は、技術者集団としての独立性を保ちつつ、オーデマ ピゲの超複雑ラインを支えるコアユニットとして機能することになります。

また、オーデマ ピゲは彼らの能力を“囲い込む”のではなく、リシャール・ミルやハリー・ウィンストン、カルティエなど他社へのムーブメント供給も許容することで、APRPの市場価値とブランド力を維持し続けました。

この“共有しながら囲い込む”という柔軟な戦略が、他のブランドとの差別化にも繋がっていきます。

結果として、オーデマ ピゲは複雑時計市場における地位をより一層強化することに成功します。

自社で超複雑機構を生み出せるブランドとして、真のマニュファクチュールとしての威信を確立することになったのです。

 

 買収後の進化オーデマピゲ・ルノー・エ・パピがもたらした革新

1992年の買収を経て、ルノー・エ・パピは「オーデマ ピゲ ルノー・エ・パピ(APRP)」として、より安定した経営基盤と豊富なリソースのもとで活動することになります。

これにより、単なるムーブメント開発会社から、“時計技術の実験場”とも言える存在へと進化を遂げていきました。

買収後の最大の変化は、「長期的ビジョンに基づいた研究開発」が可能になったことです。

資金的・人的支援を受けたAPRPは、瞬間的な利益を追求するのではなく、10年後を見据えたムーブメント設計や素材開発、試作とテストに多くの時間をかけることができるようになりました。

たとえば、オーデマ ピゲのロイヤルオーク オフショアに搭載されたトゥールビヨン・クロノグラフや、ジャンピングセコンドとフライングトゥールビヨンを組み合わせた高複雑機構など、いずれもAPRPが設計から製造までを担った革新的なプロジェクトです。

また、APRPは高度な機構のみならず、視覚的演出にも優れており、立体的なブリッジ構造、サファイアクリスタルの活用、モダンなスケルトンデザインなどを積極的に取り入れることで、従来の“クラシックな複雑時計”というイメージを刷新していきました。

さらに注目すべきは、同社が社内に時計師の育成部門を持ち、“独立時計師レベル”の技術を社員に継承している点です。

これはオーデマ ピゲにとって、ノウハウの蓄積と技術継承を自社内に確保する戦略でもありました。

買収から30年以上が経過した現在、APRPは単なる技術供給先ではなく、“アイコンを形にする頭脳”として、オーデマ ピゲのブランド戦略において不可欠な存在であり続けています。

 

 

現代のAPRP──未来をつくる静かな工房

現在のオーデマ ピゲ ルノー・エ・パピ(APRP)は、スイス・ル・ロックルに本拠を構える最先端の工房として、業界内外から注目を集め続けています。

その特徴は、外見の華やかさとは対照的な“静かな開発主義”にあります。

ここでは、前述した通りムーブメントの設計者、CADエンジニア、時計師、マイクロ機械加工技術者、素材研究者などが一丸となり、1本の時計のために数年単位の時間をかけて開発を行います。

たとえば、ミニッツリピーターの音響構造を研究するために音響工学者が加わるなど、時計業界としては異例の多分野連携が特徴です。

また、APRPは「顧客ブランドごとに専属チームを編成する」プロジェクト制を採用しており、ブランドごとの世界観やコンセプトに応じたオーダーメイドのムーブメント設計が可能となっています。

その結果、製品ごとに“中身の個性”が際立ち、ブランド価値の向上にも直結しています。

近年では、環境配慮型素材や新しいエネルギー効率に関する研究も進めており、サステナブルな高級時計製造の模索も始まっています。

従来の機械式時計の伝統を守りつつも、次世代を見据えた技術的挑戦を怠らない姿勢は、まさに「未来をつくる静かな工房」と呼ぶにふさわしいでしょう。

APRPの社内には、若手時計師の育成機関も併設されており、伝統技術と最先端技術の融合を支える人材が日々育っています。

これは、オーデマ ピゲが中長期的なブランド戦略に基づき、“知の内製化”を本気で推進している証でもあります。

今後、APRPは単なるムーブメント開発会社としてではなく、「高級時計業界の頭脳」として、さらなる技術的進化を牽引していくことが期待されます。

その活動は表舞台に出ることは少なくとも、彼らが手がけるムーブメントの鼓動は、間違いなく時計界の未来を刻んでいるのです。

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