ロレックスの幻の紫。経年変化ではなかった、伝説の『ラベンダー・デイトジャスト』の正体
こんにちは、ベルモントル青山の妹尾です。
本日ご紹介するのは、ヴィンテージ・ロレックス愛好家の間で「幻」と呼ばれてきた特別な1本、デイトジャスト Ref.1603 です。
この文字盤の色、見てください。
グレーに見えるシーンもあるんですが、これ実は淡く、気品に満ちた紫なんです。
通称「ラベンダー文字盤」ですね。
これまでこの色は「シルバーやグレーが経年変化で変色したもの」という説が根強くありました。
しかし、海外の時計メディア『Fratello/フラテッロ』さんの記事を引用させて頂くと明確にラベンダー文字盤というのが存在するそうです。
今日は、弊社の実機を使いながら、ロレックスの歴史を塗り替える「文字盤の真実」についてお話しします。
この個体のオーバーホールについては、こちらの動画で詳しく解説しておりますので、気になる方はご覧ください⬇️
それでは話を進めて参ります。
「色褪せ」か「純正」か? 40年来の論争に終止符を打つ1972年の日本カタログ
これまでヴィンテージ・ロレックスの世界において、この「ラベンダー文字盤」は、ある種「ミステリアスな存在」として扱われてきました。
多くのコレクターや専門家の間では、もともとはシルバーやグレーだった文字盤が、数十年の歳月を経て、紫外線や湿度の影響で偶然この色に変化した、いわゆる「退色」や「トロピカル文字盤」の一種だという説が定説だったんですね。
実際、ヴィンテージの世界では予期せぬ変色が素晴らしい価値を生むことがありますが、このラベンダーに関しては、実に40年以上も謎の状態が続いてきました。
しかし、その論争に終止符を打つ衝撃的な事実が、海外の時計メディアである「フラテッロ(Fratello)」さんによって答えが出されました。
それが、1972年に日本国内で発行されたロレックス公式カタログです。

※参照元:Fratello
これはフラテッロさんのサイトから引用させて頂いてる画像です。
こちらの元記事は概要欄に入れておきますね。
話を戻しまして、左から3番目に見えているのが、ラベンダー文字盤ですね。
人によって見え方は異なると思われますが、誰もが分かるニュアンスとしてはベースはグレーで、そこに紫(ラベンダー)が薄く乗っているという表現が正しいでしょう。
つまり、この気品あふれる紫は、偶然が生んだ産物ではなく、1970年代にロレックスが公式に用意した「伝説のカタログカラー」であったことが証明されたわけです。
このラベンダーは市場にほとんど出てこないので、作られたのもおそらく少数で、本日ご紹介する弊社の個体は、Ref.1603です。
デイトジャストといえば、18Kホワイトゴールドのフルーテッドベゼルを備えた「1601」が一般的ですし、カタログもそちらが記載されています。
ですが、この「1603」はステンレス製のエンジンターンドベゼルを採用しているのが最大の特徴です。
このベゼルの規則正しい刻みが、ラベンダー文字盤の優雅さに、時計本来の「道具としての力強さ」を加えています。
フラテッロさんの記事では、当時の日本の規制により夜光を排除した「No-Lume」モデルが主に紹介されていましたが、このように夜光が載ったラベンダー文字盤も、当時のカタログモデルとして実在します。
文字盤下部を見ていただくと、余計なマークのないスッキリとした「T SWISS T」の表記です。
なんとも言えない色味なのですが、これはですねぇいつも紹介してるゴーストと近しいものを感じますね。
ゴーストも日の当たり方によって、色味が大きく変わるんですが、このラベンダーも発色が良い時と、グレーで落ち着くシーンがあって、強烈におしゃれですよね。
では次に、なかなかお目にかかれない文字盤の裏側の情報を紐解いていきましょう。
希少な「ベイラー(BEYELER)」の刻印
ヴィンテージロレックスを手に取る時、私たちはその「顔」である文字盤の美しさに目を奪われます。
しかし、真のコレクターが密かに、そして情熱的に注目するのは、実はその「裏側」に刻まれた小さな文字かもしれませんね。

こちらは、今回のラベンダー文字盤の裏側の写真なのですが、そこには「BEYELER GENEVE」の刻印が規則正しく並んでいます。
ベイラー社(ドイツ語よりに発音するとバイエラー社)は、パテック・フィリップやオーデマ・ピゲといった、いわゆる「雲上ブランド」の極めて複雑で芸術的な文字盤も手掛けていた、世界最高峰の文字盤メーカーです。
彼らがロレックスに提供した文字盤には、単なる工業製品を超えた、ジュエリーのような緻密な職人技が宿っています。
例えば、インデックスを固定するわずかな足の配置、そしてベースとなる金属板の表面処理。
それらすべての工程において、ベイラー社は圧倒的な精度と美意識を貫きました。
この裏側の刻印は、その文字盤がリプリント(書き換え)や後年の代替品ではなく、当時のスイス時計産業の粋を集めて作られた「真正なオリジナル」であることを、何よりも雄弁に物語っています。
多くの個体が失われていく中で、この刻印が残るオリジナル文字盤を維持していることは、変えの効かない歴史を所有しているのと同じでしょう。
ちなみにこちらのベイラー社は1990年代後半にロレックスによって買収されています。
では次に、私の中ではおな基準の美しさに分類されるゴーストとの対比についてお話しして参ります。
ゴースト文字盤と並べてみたらどんな感じ!?
どちらも、アンティークらしい「枯れた」美しさを持つ個体です。
同じグレーに見えるシーンがあるんですが、やはりラベンダーの方は通常モードでも紫がかっていますよね。
しかし、光に当てると、それぞれの文字盤は変化を見せ始めます。
まず、こちらの「ゴースト」ですね。
経年変化によってスモーキーに褪色した文字盤は、光の角度によって「ROLEX」のホワイトレターがスッと背景に溶け込み、そのことから「幽霊(ゴースト)」と呼ばれています。
ベゼルからケースまでステンレスで統一された無機質な質感に、夜光のない「ノンルミナス」仕様が加わることで、唯一無二のダークな世界観を完成させています。
デイトジャストといえば、基本的にはフルーテッドベゼルですよね。
フルーテッドの18Kの輝きも美しいんですが、ゴーストだとステンレスの無機質な冷たい金属素材の方が相性がいいのかなぁ。と感じています。
対して、こちらの「ラベンダー」ですね。
光を捉えた瞬間に、鮮やかな紫色が鮮烈に浮き上がってきます。
偶発的な褪色ではなく、ロレックスが当時公式に意図した「美」の表現の1つと言えるでしょう。
それが半世紀の時を経て、さらに深みを増した奇跡の発色です。
おそらく、当初はもっと発色があったはずなのですが、経年によってダークな紫になってるんじゃないかなぁって思いますね。
静かにレターが消えていく「ブレスから一貫したつながりを見せる」美学を持つゴースト。
光と共に、なんとも言えない色彩を放つラベンダー。
どちらもベースはグレー系でありながら、その奥に覗かせる色味は正反対です。
では次に実際に着用してみてのレビューをやっていきます。
36mmの完成形。エンジンターンド×ラベンダーが放つ、日常の贅沢
それでは、実際に腕に乗せてみましょう。……いかがでしょうか。
まず感じるのは、36mmというケース径がもたらす「圧倒的な収まりの良さ」です。
現行モデルにはない、この軽やかさと腕乗りの良さは、一度知ってしまうと戻れない魔力がありますね。
特筆すべきは、光の下での表情の変化です。
室内では落ち着いたグレーがかった紫に見えますが、街角で太陽光を浴びると、サンレイ仕上げのラベンダーがパッと鮮やかに、しかしどこまでも上品に発色します。
1603のエンジンターンドベゼルは、光をギラつかせず、マットに拡散してくれるので、文字盤の色味がより一層、奥深く感じられます。
派手なゴールドの時計で成功を誇示するのではなく、一見するとステンレスの質実剛健な時計。
でも、よく見ると文字盤が「幻のラベンダー」である。
この「気づく人にだけ分かる」という奥ゆかしさが、非常にヴィンテージらしい贅沢だと感じます。
ヴィンテージウォッチを選ばれる方って、どっちかっていうと人に見せるために選んである方ではないと考えています。
やはり自分が良い物を所有してるなぁ。というこだわりで選ぶ方が多いはずですね。
ですが、今回のラベンダーであれば自分の満足感も満たしてくれますし、見られたとしても語れる時計であることは間違い無いでしょう。
特にこういった色味は女性は反応しやすいはずなので、モテるとかの話とは違いますが、会話のきっかけにはなってくれそうですよね。
SNS時代において、現行のロレックスは「誰でも持っているもの」になりつつあります。
そこで、あえて「Ref.1603のラベンダー」のような、知っている人が見れば二度見するようなマニアックな名品を身に着けることで、自分の審美眼を周囲に示して欲しいです。
まさに、日常を特別なものに変えてくれる至高の一本ですからね。

