1990年代の腕時計が次のヴィンテージに入ってくる事の意味
こんにちは、ベルモントルの妹尾です。
本日は「1990年代の腕時計が次のヴィンテージに入ってくる事の意味」という内容でお話しして参ります。
ヴィンテージ腕時計というと、多くの方は1960年代や1970年代の一本を思い浮かべるのではないでしょうか。
古い時代の一本ほど価値がある、という感覚を持たれている方も少なくないと思います。
その感覚自体は間違いではありません。
ですが、1990年代に製造された腕時計もまた、着実に"ヴィンテージ"としての評価を積み重ね始めているんですよね。
ちなみに私は1989年生まれなので、もうとっくにヴィンテージに分類されるおっさんです。
まだ現行モデルの延長線上として見られがちな1990年代の一本たちが、実はすでに、当時とは違う評価軸で語られるようになってきています。
生産終了からまだ30年ほどしか経っていないにもかかわらずです。
今回は、この動きをあらためて一緒に考えていきましょう。
それでは話を進めて参ります。
ヴィンテージに分類される年代にはなったものの、実際には綺麗な個体がたくさんある
まず最初にお伝えしておきたいのが、1990年代の腕時計は、年数だけで見れば、すでに立派な"ヴィンテージ"の域に入っている、ということなんですよね。
1990年代というと今から30年以上前になりますから、一般的にヴィンテージと呼ばれる基準は30年以上前なので、十分に当てはまる年代です。
ですが、実際に1990年代の個体を手に取ってみると、多くの方が抱くヴィンテージのイメージとは、少し違った印象を受けるはずです。
1960年代や1970年代の腕時計であれば、文字盤の経年変化、ケースの研磨やすり減り、といった、時代を感じさせる要素がほとんどの場合で見られます。
こうした風合いこそがヴィンテージの魅力ではあるのですが、一方で、状態の良い個体を探すこと自体が、年々難しくなっているのも事実ですよね。
ところが1990年代の個体になると、話が変わってきます。
製造からの年数がまだ30年前後ということもあり、保管環境さえ良ければ、驚くほど綺麗な状態を保った個体が、今でも数多く市場に残っているわけですよ。
ケースのエッジもしっかりと残り、文字盤の劣化も最小限で、なんなら新品とまでは言えないけれどコンディションはすこぶるいい個体もあり得ます。
以前、弊社で扱っていたIWCのインヂュニアなんかは、年代に対して凄くコンディションが良かったです。
つまり見た目だけを見れば、ヴィンテージというより、まだ現行モデルに近い印象を受ける個体が、決して珍しくないということなんです。
もうひとつ見逃せないのが、部品や修理体制の面での安心感です。
1960年代や1970年代のモデルになると、パーツの入手自体が難しくなっている可能性がありますが、1990年代のモデルであれば、まだ専門店での修理対応がしやすく、実用品として日常的に使い続けやすいという、実利的なメリットも備えているんですよね。
つまり1990年代の腕時計は、"ヴィンテージらしい風合い"と"現実的な使いやすさ"という、本来であれば両立しにくい2つの要素を、同時に持ち合わせた、稀有な年代だといえるでしょう。
この特徴こそが、1990年代の腕時計が今、あらためて注目されている理由の、ひとつの入り口になっているんですよね。
さらに付け加えるなら、1990年代の個体は、コレクションの"最初の一本"としても選びやすい年代だといえます。
古いヴィンテージ特有の扱いにくさに不安を感じる方でも、1990年代であれば、日常使いへのハードルがぐっと下がるからです。
ヴィンテージ特有の物語や風合いを楽しみながらも、実用品として無理なく袖を通せる、この安心感が1990年代の腕時計を、新たにヴィンテージへ足を踏み入れたいと考える方にとっての、心強い選択肢にしてくれてると思いますね。
では次に、1990年代という時代が、腕時計にとってどんな転換点だったのか?という内容で解説して参ります。
1990年代という時代が、腕時計にとってどんな転換点だったのか?
1990年代の腕時計を語る上で欠かせないのが、この時代が持っていた、独特の"過渡期"としての性格なんですよね。
1970年代から80年代にかけて、腕時計業界はクォーツショックと呼ばれる大きな地殻変動を経験しました。
安価で高精度なクォーツ式腕時計が急速に普及したことで、機械式腕時計を作り続けてきた老舗メーカーの多くが、経営的に大きな打撃を受けた時代です。
ですが1990年代に入ると、この流れに変化が訪れます。
機械式腕時計そのものの価値が、あらためて見直されるようになっていったんですよね。
正確に時間を刻むだけの道具としてではなく、精密機械としての魅力や、職人の技術が込められた工芸品としての価値が、あらためて評価されるようになっていきました。
パテックフィリップやロレックスをはじめとする主要ブランドが、この時期に機械式ムーブメントの改良を進めていったのも、こうした流れと無関係ではありません。
たとえばエクスプローラーは、1989年に登場したRef.14270で、クロノメーター仕様のCal.3000を搭載し、精度を大きく向上させています。
デイトナも1988年、ゼニス社の名機「エル・プリメロ」をベースにしたCal.4030を採用することで、ロレックス初の自動巻きクロノグラフとして生まれ変わりました。
つまり1990年代は、機械式腕時計というジャンルそのものが、"復活"を果たしていく過程の真っ只中にあった時代だったんですよね。
デザインの面でも、この時代は興味深い過渡期にあります。
ヴィンテージらしい小径ケースから、現代的なサイズ感へと移行していく、その中間地点に位置しているのが、1990年代のモデルたちなんです。
サファイアクリスタルの採用が広がり、防水性能も強化され、実用品としての完成度が着実に高まっていった時代でもあります。
こうした技術的な成熟と、デザインの過渡期が重なり合っていたことこそが、1990年代の腕時計を、単なる"少し古いモデル"ではなく、時代の転換点を表現する存在にしていると思います。
この時代のもうひとつの特徴として、日本国内における腕時計人気の高まりも見逃せませんよね。
バブル経済崩壊後の1990年代、テレビドラマや雑誌といったメディアを通じて、高級腕時計が幅広い層に紹介されるようになった時代でもあります。
先ほど触れたエクスプローラーRef.14270も、1997年のドラマで人キムタクが着用したことをきっかけに、日本国内で大きな話題を呼びました。
では次に、すでに"90年代再評価"の兆しが見えているモデル!という内容で解説します。
すでに"90年代再評価"の兆しが見えているモデル
ここまでお話ししてきた背景を踏まえて、実際に市場で評価が動き始めている、1990年代のモデルを2本ご紹介したいと思います。
1本目が、ロレックス エクスプローラーI Ref.14270ですね。
1990年から2001年にかけて製造されたこのモデルは、前述した通り1997年、月9のドラマ『ラブジェネレーション』で人気俳優が着用したことをきっかけに、日本国内で大きな話題を呼びました。
年式による仕様の違いも細かく評価されており、1997年頃までの14270に使われていた夜光塗料はトリチウムであり、これは皆様が好まれる優しいクリーム色ですよね。
ちなみに97年以降は「ルミノバ」に切り替わっています。
また前半はシングルで後半になるとダブルバックルになるので、同じモデルでありながら年代によって少し違います。
インデックスに夜光塗料が乗らない"ブラックアウト"文字盤は、特に人気の高い個体として知られていますよね。
ロレックスの堅牢性に磨きがかかった90年代のモデルでありながら、実用としても全然着用出来る代表として、エクスプローラーはこの年代を代表するモデルと言えるでしょうね。
そして、2本目がカルティエ サントス デュモンLM エクストラフラット Ref.821054です。
こちらは1995年に製造された一本で、サントスの系譜の中でも、特に薄さを極めた完成度の高いモデルなんですよね。
カルティエの中でも、汎用ラインとは別に特別に力を入れて作ったモデルで、それらはCPCPに分類されます。
こちらのデュモンもCPCPの中で作られています。
ムーブメントには、フレデリック・ピゲ製の極薄手巻きCal.21を搭載しており、これはパテック フィリップにも採用された実績あるハイスペムーブなんですよね。
つまり、カルティエというブランドの枠を超えて、当時の一流ムーブメントメーカーの技術が投入された一本だといえます。
この年代の個体になると、販売時の保証書が失われていることがほとんどですが、今回ご紹介する個体には、その希少な保証書が付属しているという点も、見逃せないポイントです。
この2本に共通しているのは、単に「古いから」評価されているのではなく、当時の技術的な特徴や、時代背景に紐づいた物語性が、あらためて価値として認識されるようになってきている、という点です。
これこそが、1990年代の腕時計における"再評価"の、分かりやすい実例だと言えますよね。
では次に、今のうちに"90年代"を見ておく意味!という内容で解説して参ります。
今のうちに"90年代"を見ておく意味
ここまで、1990年代の腕時計が持つ特徴と、実際に評価が動き始めている実例についてお話ししてきました。
最後にお伝えしたいのが、今のうちに"90年代"を見ておくことには、どんな意味があるのか、という視点です。
現時点では、1990年代のモデルの多くが、まだ"少し前の現行モデル"という位置づけで見られがちなんですよね。
先ほどご紹介したロレックス エクスプローラー Ref.14270や、カルティエ サントス デュモンLM Ref.821054にしても、1960年代や1970年代の個体ほど"特別な存在"として語られる機会はまだ多くはありません。
ですが、これは裏を返せば、まだ広く注目される前の段階にある、ということでもあります。
1990年代のモデルも、それ以前の名作のように、同じような時間軸をたどっていく可能性があるんですよね。
もちろん、これは「値上がりを見越して今のうちに買っておくべきだ」という、投機的な話をしたいわけではありません。
普段から腕時計は投資対象として見たら外しますよってお伝えしてますしね。
以前もお話ししましたが、資産性はあくまで結果としてついてくるものであり、それだけを目的に選ぶべきものではないんですよね。
それよりもお伝えしたいのは、今のうちに実物を見ておくことで、その個体が持つ、まだ広くは語られていない魅力に、いち早く気づけるという体験そのものの価値です。
状態の良い個体が、今はまだ比較的見つけやすいというのも、1990年代ならではのタイミングだといえるでしょう。
年数が経つほど、状態の良い個体は少しずつ市場から姿を消していきます。
だからこそ、今のうちに実際に手に取り、その一本が持つ時代背景や技術的な特徴を知っておくことには、単なる資産としての意味を超えた価値があるといえるのではないでしょうか。
1990年代の腕時計は、しっかり評価されてるモデルもあれば、まだ評価が確立される途中のモデルもたくさんあるはずです。
数年後、1990年代のモデルがどのように語られているのか。
その答えを今から知ることはできませんが、今この時代に、その一本と出会い、着用して年代を感じておくことは、誰にでもできることなんですよね。
ベルモントルの視点
1990年代の腕時計が、次のヴィンテージに入ってくる事の意味。
その答えは、年数だけでは測れない、いくつもの要素が重なり合ったところにありました。
ヴィンテージらしい風合いと、現実的な使いやすさを兼ね備えた年代であること。
機械式腕時計の復権と、デザインの過渡期が重なった、時代の転換点であったこと。
そして、デイトナやエクスプローラー、サントス デュモンといった実例が示すように、すでに歴史や物語として語られ始めていること。
これらすべてが、1990年代の腕時計を、単なる"少し古いモデル"ではなく、次のヴィンテージへと歩み始めている存在にしているんですよね。
視聴者様が1990年代の腕時計と向き合う際には、こうした背景も含めて、その一本が持つ物語に目を向けていただければと思います。
腕時計というのは本来、値段やブランド名だけでは、その一本が本当に納得できるかどうかは、決まらないんですよね。
その一本が持つ背景まで見えてきたときに、初めて「これだ」と思える自分の一本に出会えるんですよね。
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