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記事: 腕時計のムーブメント!汎用ムーブメントか自社製ムーブメントどっちが優れているのか?

腕時計のムーブメント!汎用ムーブメントか自社製ムーブメントどっちが優れているのか?

こんにちは、ベルモントルの妹尾です😊

今日は“自社製ムーブメント”の正体を、定義の曖昧さや歴史的背景(ETA問題)まで含めて分かりやすく整理します。

「自社製ムーブメント=最高」をいったん横に置き、エボーシュやハイブリッド、グループ内製との違いを比較しながら、COSCやマスタークロノメーターなど客観指標も踏まえて選び方の物差しを作ります。

最後までご覧頂ければ、ムーブメントってそもそも何なのか?

なぜ最近ほとんどのブランドがマニュファクチュールになっているのかが判り、ラベルに頼らず“あなたにとっての最適解”が見えてきます。

「最初に一言だけご連絡させて下さい。この動画が少しでも役に立ったら、次の一本はベルモントルでご検討して頂けると幸いです。

ご相談やご購入が、発信を続ける力になります。もちろん見に来るだけでも大歓迎です。

では話を進めて参ります。

 

 

自社製ムーブメントとは何か——“本物の証”の正体を問う

「自社製ムーブメント」とは、ブランドが自ら設計し、製造や組み立ての主要工程に関与して生み出したムーブメントを指します。

ただし、厳密な法的定義は存在せず、どこまでを自社の範囲とみなすかはブランドごとに幅があります。

分かりやすく説明すると、自称コンサルタント、自称投資家、自称IT系で働いてます。

などのように、会社と個人の違いはあるものの実態を掴みにくい部分は、都合良く表記できてしまうということです。

理想像として語られるのは、設計から加工、仕上げ、検査までを一貫して自社で行う姿です。

一方で現実には、ひげゼンマイのような超精密部品や、特定工程を専門サプライヤーに委ねるハイブリッドが一般的です。

このハイブリッド型が大半なんですね。

微妙なニュアンスゆえに、「自社製=本物の証」というイメージが独り歩きしやすいのも事実です。

ちなみに、全部のパーツを自社生産出来ているブランドはほんの一握りで、皆様ご存知のロレックス、そして我ら日本代表のSEIKO、最後にドイツからランゲゾーネだけなんですね。

ただし、これもその部分は社外に作ってもらって仕方ないよね。

みたいなところもあるので、100%全部フルオリジナルです!ってのとは違います。

話を戻しまして、自社製ムーブは、供給の自立性、独自機構の探求、サプライチェーンの構築、品質管理の一貫性といった面で大きな価値を持ちます。

同時に、その成果が最終製品の精度や耐久性、整備性、価格にどう反映されているかを冷静に見極める視点が欠かせません。

なぜなら「どこで作ったか」という出自だけでは、ユーザー体験のすべてを説明できないからです。

実機の歩度安定、耐衝撃性、パワーリザーブ、仕上げ品質、アフターサービスの網羅性といった“使い心地”の総体こそが価値を決定づけます。

さらに、ブランドがどの工程を自社で担い、どこを外部と協業しているのかを透明に示す姿勢も、現代の評価軸として重要です。

“本物の証”とは、『自社製ムーブメント』という響きではありません。

設計思想と生産体制、数値で示せる性能、可視化された品質保証が一致して初めて、私たちはその時計を本質的に「本物」と感じます。

自社製ムーブメントは、そのための強力な手段でありながら、判定のゴールではありません。

実物の出来栄えと、ブランドの誠実さまで含めて総合的に判断する。

それが“本物の証”の正体に近づく最初の一歩です。

ではもう少し深ぼってそれらを見ていきましょう。

 

 

定義の曖昧さ——「自社製」と「マニュファクチュール」の境界線

「自社製」と「マニュファクチュール」は、しばしば同義に扱われますが、厳密な法的定義はありません。

実務ではブランドの自己申告に依存し、どの工程までを“自社”とみなすかに大きな幅があります。

ですので、言葉だけを拠り所にすると現実と評価がズレやすくなります。

理想像としてのマニュファクチュールは、前述した通り設計から検査までを自社で一貫して行う体制です。

しかし、現代の高精度部品を完全内製するのは難易度も投資負担も大きく、信頼できる専門サプライヤーと協業したり、そこから購入するケースは珍しくありませんし、こっちが一般的です。

結果、純粋な“完全内製”は超少数派になります。

一方で、設計は自社主導だが製造の一部を外部に委ねる、汎用ベースに自社モジュールを重ねる、グループ内の専業工房が製造を担うなど、現場には多様なグラデーションが存在します。

分かりやすいところでは、半導体でしょうね。

設計はエヌビディアでやって製造は、ホンハイでやってますよね。

 

話を戻しまして、時計の場合はどれも「自社製」と呼ばれることがありますが、技術的実態は同じではありません。

また、ブランドの透明性も評価軸です。

自社と外部の役割分担、採用している外部技術、アフターサービス方針をどれだけ具体的に開示しているか。

ここが明快であれば、完全内製でなくとも十分に信頼できます。

逆に言葉だけが先行し、工程の中身が見えないと不信感につながります。

結論として、「自社製」と「マニュファクチュール」はラベルではなく連続体の概念です。

境界を言葉で断ち切るのではなく、工程配分と責任の実態、開示の度合い、最終的な性能と整備性まで含めて総合判断する。

これが曖昧さを味方に変える、賢い見極め方です。

では、次のパートでは実際に例を出してもっと深ぼって見ていきましょう。

 

 

分業の黄金期からETA台頭へ——1969年クロノマチックが示した協業の力

機械式時計の進化は、単独の天才ではなく分業の知恵が押し上げてきました。

ケースはこの工房、ムーブメントはあの工房、脱進機は別の専門家という具合に、最高の技術を束ねることで総合性能を高めてきたのです。

1969年、ホイヤー、ブライトリング、ハミルトン、デュボア・デプラが結成したクロノマチック連合は、自動巻きクロノグラフのキャリバー11を世に送り出しました。

それは“得意の持ち寄り”が複雑機構を可能にすることを世に知らしめる事件でした。

ちなみに、これらの会社が担った部分はホイヤーは製造。

ホイヤーはクロノグラフをかなり昔から製造していたので、製造のノウハウを蓄積していました。

ブライトリングはクロノグラフ機構の部分。

ハミルトンは3針ムーブメントの土台部分。

デュボア・デプラはマイクロローターの技術。

これら4社の強みを合体させて、世界初の自動巻クロノグラフが誕生しているのです。

もっと詳細に知りたいよ!って方はこちらの動画で詳しく解説しておりますので、ご覧ください⬇️


同時期にはジャガー・ルクルトやレマニアの供給力が世界3大雲上ブランドを支え、分業は創造性の母体として確かな機能を果たしていました。

しかし、70年代のクォーツショックで構図は一変します。

多くの工房が淘汰や統合を余儀なくされ、やがてエボーシュ供給の中枢としてETAが台頭しました。

標準化と大量生産によって安定供給とコスト管理が進み、信頼性の均質化が実現します。

その結果、中堅ブランドでも精度と耐久性の一定水準を満たす時計を作りやすくなりました。

一方でムーブメントの“顔つき”は似通い、差別化の難易度が上がったのも事実です。

この頃はどの時計にもETAが搭載されていましたし、そういった背景があってエタポンとか言われてたんですね。

ですがそれはETAの凄みを知らないからであって、ETAはスイスのムーブメント会社の80%程度を飲み込んできた歴史があります。

よって、ムーブメントの技術の蓄積は他社を寄せ付けない圧倒的アドバンテージを持っています。

ETAの歴史については、こちらの動画で詳しく解説しておりますので、気になる方はご覧ください⬇️

 

話を戻しましてよって、愛好家らは物語性や独自機構を求め、ブランドは“ブランドらしさ”の回復に向けて方策を探り始めました。

このねじれが後年のインハウス志向やグループ内製、専用キャリバーの潮流を生み出す地盤になったのです。

協業は革新を加速し、供給集中は安定をもたらす一方で個性を薄めます。

ただし、それでも自社製ムーブメントを1から設計するのには、莫大な時間もお金も必要なので、ETAのムーブメントを採用し続ける状態が続いていたのですが、流れが変わります。

ではそこを一緒に見ていきましょう。




ETA問題のインパクト——2002年の宣言から2020年の供給義務終了まで

2002年、スウォッチグループがETAのエボーシュを、グループ外へ段階的に供給縮小すると表明し、業界は大きく揺れました。

長年ETAに依存してきた多くのブランドにとって、これは存続戦略を問い直す出来事でした。

スイスの競争委員会が介入し、急激な断絶は避けるため移行期間が設けられましたが、供給は計画的に絞られていきます。

この圧力は負だけでなく、各社に開発力の内製化や調達網の再設計を促す契機になりました。

結果としてセリタのような代替サプライヤーが台頭し、汎用キャリバーの多様化が進みます。

同時に、ブランドは“自社製”の旗を掲げやすくなり、技術と物語の両面で差別化を図る流れが強まりました。

しかし自社製化は巨額の投資と時間を要し、短期的にはコスト上昇や価格転嫁、初期トラブルのリスクも抱えます。

安定供給と独自性の獲得というメリットを得たことの反面、開発費の負担というデメリットが天秤にかけられたのです。

消費者側では「インハウス=上位」という単純化が進む一方、修理性や部品供給の現実を重視する声も強まりました。

2020年、ETAの外部供給に関する義務は完全終了し、選択は市場原理に委ねられます。

その結果として、完全内製、グループ内製、専用エボーシュの三極化が進み、ブランドごとの戦略差がより鮮明になりました。

ETA問題は、一つのサプライヤーの方針転換にとどまらず、業界全体の設計思想、価格構造、そして“本物”の定義までも更新した分水嶺だったのです。

では、ETAの供給が終わった後のそれぞれのブランドがとった戦略を見ていきましょう。

 

 

各社が自社製を志向する理由——安定供給・独自技術・品質管理・アフター戦略

昨今はルイヴィトンもマニュファクチュールになっており、『自社製』と訴えればどんな時計でも格が上がり売れそうな雰囲気が出ています。

ブランドが自社製を目指す第一の動機は、供給の安定性です。

第三者の都合で生産計画が左右されない体制を築けば、価格戦略を自社の意志で設計できます。

要するに、ムーブメントの設計製造で費やした莫大な資金を『自社製』という耳障りの良いワードを使うことで時計に価格転嫁できるということです。

第二の理由は独自技術の実装です。

耐磁、耐衝撃、脱進機の改良、シリコン素材の活用、独自のハイビートや薄型化など、ブランドの哲学を機構として可視化できます。

それはデザイン言語と同じく“署名”となり、コレクターに語れる物語を生みます。

第三はアフターサービスの戦略化です。

部品供給と修理ノウハウを自社で管理できれば、長期の保守性を約束しつつライフサイクル収益を確保できます。

自社製になったあとのムーブメントは、ETAなどのように設計が簡単ではなく複雑になっています。

また、パーツもメーカーが所有しているので、そこら辺の時計店に出しても修理は出来ません。

となるとメーカーに出すしかないのですが、ここも含めての自社製ムーブメントなんです。

腕時計高いなぁ・・・って実感してる方は多いはずですが、実はこのアフターサービスも高くなっています。

このように1度購入すれば、縛りを設けることが出来るでその時計を所有する限り、メンテナンスの部分でも利益を上げれる構造になったんですね。

では、自社製ムーブメントは本当に無敵なのか?

というのを次のパートで見ていきましょう。

 



“インハウス=最高”ではない——初期不具合とCal.1887が残した教訓

自社製ムーブメントはロマンがありますが、「常に最良」とは限りません。

新規開発の初期世代では、設計の詰めや耐久試験、注油構造、組立手順が市場使用で不具合が発生し、精度不安定や部品摩耗などの不具合が出ることがあります。

量産立ち上げ期は検査基準や治具の最適化も途上で、個体差が広がりやすい局面です。

一方、長年改善が重ねられた汎用エボーシュは、設計成熟度と部品入手性、技師の習熟度で優位に立つ場面が少なくありません。

仕上げや調整が適切なら、高精度と耐久性を十分に発揮します。

長らくエボーシュとして働いてきた、ジャガールクルト、ピアジェ、フレデリックピゲ、クロノグラフではヴィーナス、バルジューなどがほとんどのブランドで採用されていたのは、先ほどの2つを実現してきた実績があるからなんです。

ですので、ヴィンテージウォッチを見た時に、ETAも含めそれらのブランドのムーブメントが搭載されていることが結構あるんですが、一概に自社ブランドが載っていることが正解ではないということを理解しておく必要があります。

 

話を戻しまして、自社製という表現で問題が起きた事件がタグ・ホイヤーのCal.1887です。

当初「完全自社製」と強調されたものの、実際にはセイコーの先行設計思想をベースに再設計・工業化した経緯が後に判明し、表現の透明性が議論になりました。

ここから学べるのは、出自のラベルよりも「実測性能」「整備性」「情報公開」が信頼の鍵だということです。

また、ブランドが設計変更やサービス通達をタイムリーに開示しているかも重要です。

結論として、自社製は“手段”であり“保証”ではありません。

ラベルに酔わず、成熟度と透明性、アフターの現実まで見て判断することが、賢い一本に近づく最短距離です。



 

第三の道:ハイブリッド/グループ内製——ケニッシやヴァルフルリエの位置づけ

完全内製と汎用エボーシュの中間に、ハイブリッド/グループ内製という実務的な選択肢があります。

設計は自社主導で、一部工程はグループ内の専門工房が担い、最終の品質保証はブランドが引き受ける方式です。

代表例として、チューダーを軸に複数ブランドへ供給するケニッシ、リシュモングループの製造基盤として機能するヴァルフルリエなどが挙げられます。

これらは外販汎用機ではなく、事実上そのグループないし提携先に“専用”で供給されるプロプライエタリーなキャリバーです。

利点は開発と量産の規模効果を享受しながら、設計思想やスペックをブランド専用に最適化できる点にあります。

耐磁やパワーリザーブ、輪列の設計自由度を高めつつ、部品共通化で保守性とコストの見通しも確保しやすくなります。

一方でラベリングは曖昧になりがちで、「インハウス」と言い切ってよいのか、「グループ内製」と正確に表現すべきかが論点になります。

評価の鍵は、誰が仕様を決め、誰が工程を監督し、誰が最終検査と長期の部品供給責任を負うのかという“責任の所在”です。

加えて、外装仕上げや脱進機の選択、調整基準など、ブランド固有の味付けがどれだけ反映されているかも見どころです。

ユーザー視点では、開示の透明性、サービス網、部品供給期間、第三者認証の有無を確認すれば、実態と価値が見通しやすくなります。

結論として、ハイブリッド/グループ内製は独自性と現実解のバランスを取りやすい“第三の道”です。

ラベルの響きより、設計主導権と品質保証、保守性という実体で見極めることが賢明です。

 

 

 



ラベルを超えて選ぶ——あなたにとっての最適解と“価値”の基準

最後は、ラベルではなく「あなたの基準」で一本を選ぶ手順を示します。

まず用途を言語化します。

毎日使うのか、スーツ用か、アウトドアか、将来の資産性を狙うのか。

用途が定まると、必要な耐磁性や防水、厚み、パワーリザーブの下限が決まります。

次に総予算だけでなく総所有コストを見積もります。

オーバーホール周期と費用、部品供給期間、独立系での整備可否を販売店で確認します。

第三に“透明性チェック”です。

自社と外部の役割分担、グループ内製や専用エボーシュの実態、検査基準や保証範囲が、公式資料でどこまで明記されているかを見ます。

第四に“実測”を重ねます。

歩度、振幅、ビートエラーをその場で計測し、6姿勢のばらつきや巻上げ効率、リューズ操作感を自分の手で確かめます。

第五に“仕上げと作り”です。

外装のエッジ、面取りの均質さ、針とインデックスの整合、裏蓋越しの整然さは、数字に出にくい品質を映します。

第六に“心が動くか”を問います。

ブランドの物語や設計思想、音や手触りが所有の喜びにつながるかは、長期満足の核心です。

ここまで満たしたうえで、最後にラベルを見るのが順序です。

インハウスかエボーシュか、ハイブリッドかは“手段”。

あなたの用途、品質の実測、整備性、透明性、そして心の納得が揃ったとき、その時計は最適解になります。

結論はシンプルです。

ラベルに始まり、ラベルで終わらない。

自分だけの物差しで、一本を選び取りましょう。

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