写真を撮る人と、静かに見る人。時計の選び方は何が違うのか?
こんにちは。ベルモントルの妹尾です。
店に立っていると、色々なお客様の見方の違いに気づくことがあります。
たくさん質問される方もいれば、写真を撮って帰る方もいますし、逆にほとんど何も喋らずに、ただ静かに時計を見て帰る方もいらっしゃいます。
そして不思議なことに、後日もう一度来店されて、実際に購入されるのは、どちらかというと後者の「静かに見て帰る方」が多い印象があります。
これは単なる偶然なのか、それとも選び方の違いなのか。
今回は、店頭で感じているこの違いについて、少し深くお話ししていきます。
なぜ「静かに見て帰る人」が気になるのか?
おかげさまで1年前にここをオープンした時よりも、たくさんのお客様にお越しいただけるようになったのですが、店頭にいると、「この方はどういう選び方をされるのだろう」と感じる瞬間があります。
たくさん質問をされて、その場で盛り上がる方もいれば、ほとんど会話をせずに、ただ時計を手に取って、静かに見て帰られる方もいます。
接客という観点で見ると、前者の方が分かりやすいですよね。
どこが気になっているのか、何を比較しているのかが言葉として出てくるので、こちらとしても説明がしやすいですし、その場での温度感も伝わってきます。
一方で、後者の「静かに見て帰る方」は、正直なところ、その場では何を考えているのか分かりにくいです。
質問もほとんどなく、リアクションも控えめで、時計を見て、試着して、しばらく考えて、試着して、じっくり見て、また試着してって方も一定数いらっしゃいます。
すると一般的には「まだ検討段階なのかな」とか「そこまで興味がなかったのかな」と受け取られがちです。
しかし実際には、この静かな時間の中で、とても多くのことを考えている可能性があります。それは
見た目の印象だけでなく、自分の生活に合うかどうか。
長く使えるかどうか。
違和感がないか。
今日の格好じゃなくても合わせることが出来るのか?
そういったことを、自分の中で一つひとつ確認している時間です。
つまり、外に言葉として出ていないだけで、内側ではかなり深く整理が進んでいる状態とも言えます。
だからこそ、その場では何も起きていないように見えても、後日になって「やはりあの時計が良かった」と判断がまとまり、再来店につながることがあります。
この違いは、単に性格の問題というよりも、「どうやって選ぶか」という考え方の違いに近いのではないかと感じています。
そしてこの選び方の違いが、最終的な購入の仕方にも影響しているように見えるのです。
では次に、写真を撮る人は悪いのか?という誤解について!という内容で解説して参ります。
写真を撮る人は悪いのか?という誤解について
ここで一つ、誤解のないようにお伝えしておきたいことがあります。
私は、静かに見て帰られる方の中に、深く考えて選ばれている方が多いように感じていますが、だからといって、それ以外の見方をされる方が良くないと言いたいわけではありません。
たとえば、気になった時計を写真に残しておく方もいらっしゃいますし、その場で積極的に質問をされる方もいらっしゃいます。
それぞれに、ご自身なりの選び方があり、その行動自体に良い悪いがあるわけではありません。
大事なのは、何をしているかではなく、その行動の奥にある「判断の仕方」です。
写真を撮るという行為は、多くの場合、その場で判断を完結させるというよりも、一度持ち帰って検討する前提で行われています。
後から見返したり、他の個体と比較したり、あるいは価格や状態を整理したりするための材料を集めている状態です。
つまり、外側の情報を積み重ねて、より良い条件を見つけようとする選び方です。
これはとても合理的で、多くの方が自然に行っている方法でもあります。
一方で、静かに見ている方は、その場で自分の中の感覚を確かめています。
見たときの印象がどうか。
腕に乗せたときに違和感がないか。
長く使うイメージが持てるかどうか。
こういった、言葉にしにくい部分を丁寧に確認しています。
つまりここで起きている違いは、「写真を撮るかどうか」ではなく、「どこを基準にして判断しているか」という違いです。
外側の情報を集めて選ぶのか。
それとも、その場で自分の感覚と向き合って選ぶのか。
この違いが、その後の選び方や、最終的な決断の仕方にも大きく影響してくるように感じています。
では次に、比較で選ぶ方と、納得で選ぶ方の違い!という内容で解説して参ります。
比較で選ぶ方と、納得で選ぶ方の違い
ここまでの話を整理すると、見えてくるのは「選び方の軸の違い」です。
大きく分けると、時計の選び方には2つの方向があります。
一つは、価格や状態、ブランド、希少性といった要素を比較して、その中から最適な一本を選ぶ方法です。
もう一つは、その時計を実際に見て、触れて、自分の中で違和感がないかを確かめながら選ぶ方法です。
前者は「比較で選ぶ方」、後者は「納得で選ぶ方」と言い換えることができると思います。
比較で選ぶ方は、できるだけ多くの情報を集めて、その中から条件の良いものを選ぼうとします。
価格が適正か、他より安いか、状態は良いか。
そういった要素を一つずつ確認していくことで、失敗のリスクを下げようとする考え方です。
これは非常に合理的で、間違っているわけではありません。
ただ、この方法はどうしても「正解を探す選び方」になります。
一方で、納得で選ぶ方は、必ずしも条件の最適解を求めているわけではありません。
むしろ、「自分の中で納得できるかどうか」を基準にしています。
腕に乗せたときに違和感がないか。
長く使うイメージが持てるか。
見ていて自然に気持ちが落ち着くか。
そういった言葉にしにくい部分を含めて、判断しています。
そしてこの違いが大きく出るのが、「決断のタイミング」です。
比較で選ぶ方は、条件が揃わない限り、なかなか決断に至りません。
一方で、納得で選ぶ方は、自分の中で基準が満たされた瞬間に、意外とあっさり決めることがあります。
意外や意外かもしれませんが、この前ご購入頂いたサントスカレのゴドロンブレスのゴースト文字盤の方も、パテックのブレス一体型のモデルの方も30分で制約しています。
もちろん、その前段階でかなり動画をご覧になってるというのがあるので、事前の情報収集が蓄積されてるですが、これいいですねぇ・・・・
じゃあ、よろしくお願いします。
みたいな感じで、特段私はしゃべってません。
店頭で静かに見ている時間というのは、まさにその「納得の基準」を確かめている時間でもあります。
だからこそ、その場では何も起きていないように見えても、実際には判断がかなり進んでいることがあります。
そしてこの「選び方の違い」こそが、その場で購入されなくても、後から戻ってくるかどうかを分ける、一つの要因になっているように感じていますね。
では次に、高い時計ほど「最後は感覚で決まる」理由という事について解説します。
高い時計ほど「最後は感覚で決まる」理由
高額な時計を選ぶとき、多くの方はまず価格や状態、ブランド、希少性といった分かりやすい情報を確認されます。
これは当然のことですし、特にヴィンテージ時計であれば、そこを見ずに決めるわけにはいきません。
ただ、実際の店頭で感じるのは、ある金額を超えてくると、最後の決め手は情報だけではなくなるということです。
たとえば、価格差の理由も理解した。
状態も確認した。
スペックも把握した。
それでも最後に残るのは、「自分の中でしっくりくるかどうか」という感覚です。
要するにそういった方々ってしっくり来てれば、他にもう情報は必要なくなってしまうんですよね。
これは曖昧な話に聞こえるかもしれませんが、高い時計ほど、この感覚がとても重要になってきます。
なぜなら、高額な時計は単なる買い物ではなく、その人の時間や価値観に深く関わるものになるからです。
数日だけ使うものではありませんし、勢いだけで決めてしまうと、後から小さな違和感が大きくなってしまいます。
だからこそ、人は最後の段階で「この時計を自分が持っていて自然か」「長く使っていて無理がないか」を静かに確かめます。
この確認は、比較表や写真だけではできません。
実物を前にして、腕に乗せて、しばらく見て、自分の中にある違和感の有無を探る。
その時間が必要になります。
そしてこの時間があるからこそ、その場では何も起きていないように見えても、実は判断がかなり進んでいることがあります。
高い時計ほど、最後は理屈だけではなく、自分の感覚にきちんと納得できるかどうかで決まる。
私は店頭でその場面を何度も見てきましたし、だからこそ、静かに見ている時間には意味があると感じています。
では次に、喋らない時間に起きている“頭の中の整理”という事について解説します。
喋らない時間に起きている“頭の中の整理”
店頭で、5分、あるいは10分ほど、ほとんど会話がない時間が続くことがあります。
もちろん最初は私も喋りますよ。
どうやってここを見つけて頂いたんですかぁ。とかこの時計はこういうところがいいですよねぇ。とか。
ですが、それらが一通り終わったらお客様によって、しっかりみたいって方もいらしゃるので、そこは察して私もしゃべらないようにします。
沈黙が発生するとなんだか落ち着かないから、喋りたくなっちゃうのは店員さんあるあるだと思いますが、私の場合は特に沈黙が発生しても気にならないし、どうぞごゆっくりご覧くださいって感じです。
そもそも私自身がお店に行った時に、気になることがあったら自分から聞くからほっといていいよ、ってスタンスなので、お客様にもそのように伝えて沈黙タイムに入ります。
初めて見る方からすると、少し気まずく感じるかもしれませんし、「何も起きていない時間」に見えるかもしれません。
ただ実際には、この時間の中で、お客様の頭の中ではかなり多くのことが整理されています。
目の前にある時計を見ながら、自分の生活に当てはめて考えています。
前述した通り
普段の服装に合うか。
仕事の場でも自然に使えるか。
長く使っていけるか。
そういった具体的なイメージを、一つひとつ重ねていく時間です。
同時に、「違和感があるかどうか」も確認しています。
デザインのバランス。
サイズ感。
腕に乗せたときの収まり。
ほんのわずかなズレでも、長く使うことを考えると無視できない要素になります。
こういった感覚的な部分は、会話をしながらではなく、静かに向き合っているときの方が見えやすくなります。
だからこそ、あえて言葉にしない時間が必要になることがあります。
そしてこの整理が進んでいる方ほど、その場で無理に結論を出そうとはしません。
一度持ち帰って、自分の中で違和感が残っていないかを確かめられます。
その上で、「やはりあの時計だった」と判断がまとまったときに、もう一度来店されることがあります。
表面的には何も起きていないように見えるこの時間ですが、実際には選ぶための重要なプロセスが進んでいると私は感じています。
ベルモントルが「静かな時間」を大切にしている理由
ここまでお話ししてきたように、時計を選ぶという行為は、単に情報を集めて比較するだけでは完結しない部分があります。
特に長く使うことを前提にした時計であればあるほど、最後は自分の感覚ときちんと向き合う時間が必要になります。
だからこそ、ベルモントルでは「静かな時間」を大切にしています。
無理に会話を続けることや、その場で決断を促すことはしていません。
なんで店員さんが沈黙タイムを嫌がるかっていうと、これは私の予想なんですが、この沈黙タイムがあると大体の流れとしては、じゃあ一度持ち帰って検討します。って流れになるんですよね。
それで一度持ち帰ったらもう熱は冷めてしまって、まぁまた今度でいっかってなって購買に繋がらないだろうなぁ・・・・ってのがイメージ出来るから、そこで頑張って喋っちゃうんだと思うんですよ。
そこで頑張るのは全く問題ないと思うんですが、そもそも論としてそこに行き着くまでにほとんど会話は終わってしまってるわけで、そこで頑張っても意味がないと思っています。
さらに最悪なのは、最後の切り札として「これ資産になりますよ」とか「これ安いですよ」といった1万回聞いてきた浅すぎるフレーズを出してしまうことです。
資産かどうかは私が決めるし、安いかどうかも私が決めます。って内心思いますよね。
それを言えば『買う!』と思われる自分は軽く見られてるんだろうなぁ・・・・って気持ちになるわけじゃないですか。
だから、頑張ったらとか、押したら行けるかどうかってのは結果論でしかないと考えています。
どういうことかと言いますと、ほとんどの場合、日和見的な感情で見に来てるわけではいということです。
買う!見にくる!
ここがある程度固まってて、そこから見にくる!って決めてお越しになった方が『う〜ん、どうしようかなぁ・・・』って迷う。
このどうしようかなぁ・・・・があと一歩押せばどうにかなると思いがちですが、そうじゃないです。
一通り喋り終わって、そこで購買に繋がらなかったのであれば、それはこちらがコントロール出来る領域ではなく、お客様がコントールする領域に入ってるので、こちらが頑張っても意味がないと考えています。
そういった考えから、お客様がゆっくりと時計と向き合い、自分の中で整理する時間を邪魔しないこと、そして一度持ち帰って頂くことも、接客の一つだと考えています。
それで大半は帰ってくることはありませんが、それはそれでいいんですよ。
自分はどういったスタンスで接客をしたいか。
って話なので。
もちろん、ご質問があればしっかりとお答えしますし、必要な情報はきちんとお伝えします。
ただ繰り返しになりますが、それ以上に大切にしているのは、「自分で納得して選べる状態」をつくることです。
情報だけで決めた時計は、後から違和感が出ることがあります。
一方で、自分の感覚に納得して選んだ時計は、多少の条件の違いがあったとしても、長く付き合っていけることが多いです。
だから私は、店頭で静かに時計を見ている時間には、しっかりと意味があると思っています。
何も起きていないように見えるその時間こそが、その方にとっての「選ぶ時間」だからです。
ベルモントルは、そういった時間を大切にできる場所でありたいと考えています。
そしてその中で選ばれた一本が、長く使い続けられるものになるのであれば、それが一番良い形だと思っています。