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Article: 高級腕時計のバブルは崩壊するか?スイスのインフレで物作りはどう変わるのか?

高級腕時計のバブルは崩壊するか?スイスのインフレで物作りはどう変わるのか?

動画で『高級腕時計のバブルは崩壊するか?スイスのインフレで物作りはどう変わるのか?』をご覧になる方はこちらから↓

 

スイスの高級腕時計のバブルは崩壊するか?

今回ですね、スイスの腕時計に関するブルームバーグのニュースを読んでみました。

それがこちらです。

スイスの腕時計メーカー、中銀にフラン高対策を要請-輸出に逆風

このブルームバーグの記事は概要欄に入れておりますので、そちらからご覧ください。

では前半部分だけ読み上げていきますね。

 

スイスの腕時計メーカーは、海外販売の低迷を受け、輸出業者を支援するために自国通貨高を抑えるよう中央銀行と政府に求めた。

  「インフレ率が現在2%を大きく下回っているため、スイス国立銀行(中銀)には為替市場で対応し、行動を起こす余地がある」と、スイス時計協会とスイス時計産業雇用者連盟は主張。「臨機応変でより反応的なアプローチを取ることで、フランの変動を減らすことも可能になるだろう」と論じた。

  スイスの腕時計メーカーは、高級腕時計の需要低下に苦戦している。

過去3年間の出荷額は過去最高を記録したが、2024年1-7月の時計輸出額は2.4%減少した。

一部のブランドや部品メーカーは、恒久的な人員削減を避けるために、政府支援による業務縮小に頼っているとブルームバーグ・ニュースが報じた。

  この業界には約700社が含まれ、約6万5000人を雇用している。

輸出が国内総生産(GDP)の55%を占めるスイス経済の重要な柱となっている。ブランドはロレックスからパテックフィリップ、そしてスウォッチグループやリシュモンなどの高級品複合企業まで多岐にわたる。

まだ話は続くんですが、一旦ここまでですね。

 

要約すると、スイスの物価が高すぎるからフラン安に持っていって!

って話なんですね。

こちらの記事では、マーサーの2024年の生計費データによると、香港、シンガポール、チューリッヒは現在、海外派遣者にとって最も物価の高い都市です。

と記載があるくらいですからね。

ビッグマックセットで2000円、500mlのコーラで600円ですのでいかに物価が高いかが分かりますね。

日本も2011年から2016年頃までは強烈な円高が続いてましたが、日本はそれでも人件費は上がってなかったので、輸出する商品も据え置き状態でした。

しかしスイスは、物価は上がるのと一緒に人件費も上がっていってます。

人件費が上がるということは、その分を商品の価格に転化しないと行けません。

よって、スイスで作られている腕時計がガンガン値上がりしてるんだけど、海外の消費者がそれについて行けない!

って状況になってるから、

中銀さん!

フラン安にしてこれ以上の人件費の高騰と商品価格の高騰を抑えようぜ!って話なんですね。

 

では、実際に現場ではどうなってるかって言いますと、もうここに2〜3年ずっと右肩上がりで腕時計の値段は上昇しています。

毎回3%とかの値上がりをしてるんですが、それが年に3回とかモデルによっては一気に10万円アップとか、信じられないくらいの上昇を続けてきました。

ですので、基本的にはロレックスは普通のステンレスモデルは100万円前後が相場になっていますし、カルティエもサントス ドゥ カルティエは既に100万オーバーですが、それと同じくらい人気なフランセーズ、アメリカンももう97万とかなので次の値上げで100万突破が見えています。

 

スイスの物価と人件費がベースにあり、それを元に時計が作られているので、このようにどんどん値段が上がっていくのですが、我々日本の円安の状況ではこれが続くとちょっと頑張ったら買えてたモデルが、もうこれは買えないなぁってなってしまいます。

 

まぁ日本だけじゃなくて、世界的に見てもちょっと腕時計高くなってきてるよねぇ・・・って空気感が出てきてるから、スイスの腕時計の輸出が減ってきてるんでしょうけどね。

現在の日本はその中でも、特にダメージの大きい国なんですね。

 

記事の話では、スイスのGDPの比率が時計の輸出で55%と半分以上を時計の命運にかけられています。

日本で言えば、トヨタの車の売れ行きが国の先行きの命運を握ってるような感じでしょうね。

日本は先ほども解説した通り、超円安なのでトヨタは無双状態なのですが、スイスの時計業界は、最悪とまでは行かずとも有利ではないというのは分かりますね。

 

では時計ブランドを見ていきましょう。

 

腕時計ブランドは物価高での状況はどうなってる?

時計ブランドを見てみれば、ロレックスがベースにあってウチのブランドはロレックスよりも下かなぁ、上かなぁってのがブランドの中にはありますよね。

例えば、世界3大時計ブランドはどのモデルでもロレックスより値段が安かったらダメなんですよ。

なぜなら、ブランドのイメージが低下するからです。

誰もが簡単に手に入れることができないから、それはブランド物でありブランドの中でもランキングがあります。

ということは、ロレックスが値段を上げればそれ以上のブランドはブランド力を保つために、値上げしないと行けません。

ロレックスより下のブランドも、自分のとこより下のブランドが値上げしたら自分のとこのブランド イメージが下がるので、やはり値上げしないと行けません。

ということは、最下層のブランドでない限り、どこかが動けがそれに釣られて他のところも動くような構図になってるんですね。

コロナ期間中から、爆発的に伸びてきた腕時計の需要に乗っかることで、毎年何%かづつのサイレント値上げをやってきたのですが、だんだんとそれがバレつつあります。

品質が上がったことによって、それが価格に反映されているのであれば、それはまだ我々は納得出来るのでしょうが、同じモデルが去年買うか今年買うか、大きな価格差が出てしまうのであれば、確かにちょっとなぁ・・・という気持ちなりますよね。

とにかくひたすら、混乱に乗じて値上げしまくってきたスイスの腕時計業界全体の流れは、一旦見直さないと行けない!というところにまで来てると言えるでしょう。

 

ではここからは、スイスの人件費の高騰が続くことで起きるものづくりの変化を解説します。 

 

 

スイス時計産業歴史からものづくりの変化を見ていこう

現代と過去を簡単に比較することは出来ませんし、実際は今はそこを上手にやっているであろう!

という程で解説しますので、そんなことがあったのねぇ。

程度で聞き流してください。

まずですね、1960年代に入ってからクロノグラフの手巻きムーブメントは、だいぶスタイルを変えることになります。

ではこちらの図をご覧ください↓

腕時計クロノグラフムーブメントの進化の歴史

 

ではまずこの図の見方なのですが、左側が古くて右側が新しいムーブメントになっています。

一番左がヴィーナス社製Cal.178

ヴィーナスって会社のクロノグラフムーブメントで、1960年代のブライトリングは大体ヴィーナスのムーブメントが入っています。

ブライトリング専属ってわけではありませんが、ほぼ専属の会社って感じでしたね。

そして、その隣がcal.178の進化系のCal.188で、その時にバルジューっていう別のクロノグラフムーブメントを作る会社に買収されたことで、キャリバーナンバーも変わりバルジュー社製Cal.7730となります。

よって、ヴィーナス名ではCal.188でバルジュー名ではcal.7730ということで被らせています。

ちなみに買収されたのは、1966年ですね。

そして次の年に、このバルジュー7730を更に進化させたバルジュー社製Cal.7733を生み出します。

同じようなムーブメントが並んでるように見えると思いますが、(特に左の2つですね)でもよくよく見たら違ってて、その違いこそが今回の問題につながってくるところです。

そもそも、なんでヴィーナスがバルジューに買収されたかというと、この頃もスイスの人件費が高騰してて、その固定費に耐えることが出来なくなって買収されたんですね。

ここを頭に置いておいてください。

ではその作りを比較してみましょう。

まず一番左のヴィーナスcal.178とその隣のcal.188の比較です。

ヴィーナスCal.178とCal.188の比較

 

この画像の赤丸で囲ってる部分をご覧頂きたいのですが、これがコラムホイールと言います。

これら2つのムーブを並べたときに、最も大きな違いはコラムホイールが『ある』か『ない』かです。 

 左側はクロノグラフの動作をコラムホイールで制御するのに対して、左側はカムって言ってプレス整形で作ることができるプレートで制御します。

コラムホイールがどうとか、カムがどうとか話したら意味不明になると思いますので、ここではとりあえずコラムホイールは高級なんだなぁ、程度の理解で大丈夫です。

こちらがコラムホイールなのですが、これは職人が1つ1つ丁寧に、柱の角度を調整していかないと行けません。

要するに、人の手がかなり必要なパーツなんですよね。

その反面プレスでガッちゃんこして作れるカム式は、機械が動いてるうちは何発でも作れるので、そこに人の手は介入しません。

よって、この2つのムーブメントは、ぱっと見は同じに見えてもこれが完成するまでの金額は大きな開きが出てくるんですね。

そして、大きな部分を占める人件費を削減できるわけですから、バルジューはこれでヴィーナスを買収しても採算を合わせることが出来たのです。

実際に現在も販売されている高級ラインのクロノグラフは、必ずコラムホイールが採用されています。

例えば、こちらはモンブランのリミテッドエディションなのですが、コラムホイールが入っています。

モンブラン クロノグラフ リミテッドエディション

 

ちなみに入ってるムーブメントは、クロノグラフのムーブを設計製造することが出来たミネルバという会社のものが現代的にアレンジされて入っています。

パテックフィリップのクロノグラフ Ref.5172G

次にこちらはパテックフィリップのRef.5172Gですが、こちらもカバーの下にコラムホイールが入っているのが分かりますよね。

実際には、コラム式かカム式かで動作が変わるということはありません。

ボタンを押した時のカチっという感触が、コラム式の方が心地良いだけです。

しかし、その感触を追求するからこそ高級ブランドや高級モデルは、コラムホイールを採用するのです。

現行のアルファードは、旧型と比較して静寂性がかなり向上してるらしいのですが、子供が3人いて常にうるさい状態の私のような素人はその些細な変化に気がつくことはないはずです。

でも、そこを追求しました!って言えば、その分価格に反映させることができるんですよね。

まぁ他にも色々品質は向上してるでしょうし、私はトヨタ大好きなんですがもうアルファードは欲しくても手が出ませんよね。

話を3つのムーブメントが映った画像に戻しまして、真ん中と一番右のムーブメントは、これらは違うというのは一目で分かって頂けると思います。

Cal.7733なのですが、大量に生産されたムーブメントなので、この年代のクロノグラフの半分はこのムーブが乗ってるんじゃないかなぁって思いますね。

この2つのムーブメントの大きな違いは、ブレーキレバーが追加されていることです。

これは簡単に解説すると、時計に衝撃が加わった時にクロノグラフの針が飛んでしまうのを防ぐ役割を持たせるパーツです。

バルジュー7730はその構造上、ブレーキレバーを搭載できなかったのですが、7733の設計に進化させることでブレーキレバーを追加できるようになりました。

とは言っても、それぞれのパーツはより機械が作る場所が増えたために、これまた製造コストが抑えられて作られているのです。

そして、これが手巻きの最後となり次期型のcal.7750に進化することになります。 

 ここまでの話の詳細はこちらの動画で詳しく解説しておりますので、気になる方はこちらの動画もご覧ください↓

 

といった感じで、人件費の高騰に対抗するためにどんどん簡素化させてムーブメントを作り上げてきたスイスのムーブメントなのですが、この手巻きクロノグラフ簡素化最終形態のCal.7733でも高級な部類に入れていいと思います。

というのも、自動巻でクロノグラフを動かすよりも手巻きでクロノグラフを動かす方が難しいし、手巻きクロノグラフの方が部品点数が多いからです。

現代で超高級モデル以外で、手巻きのクロノグラフが存在しないのは採算が合わないからなんですね。

古いムーブメントの方が、人の手が介入する場所が多く、より複雑に作られているってことですね。

 現代のムーブメントは、古いものよりもかなり品質が向上していますし、防水も当たり前になっています。

 

しかし、このように腕時計自体の価格が高騰していく現代において、それは品質が向上したことで値段が上がっているのか?

ブランド力を保持するために上がり続けているのか?

というのは注意深く見ておく必要があるでしょう。 

 

 

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