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Article: パテック フィリップを支えた名門ケースメーカー:F. バウムガルトナーとは?

パテック フィリップを支えた名門ケースメーカー:F. バウムガルトナーとは?

こんにちは、ベルモントルの妹尾です😊

本日の動画では、『パテック フィリップを支えた名門ケースメーカー:F. バウムガルトナーとは?』という内容で解説して参ります。

パテックフィリップの腕時計は良い物だと分かっていても、なんでそれが良い物なのか?

その裏打ちが取れてないのであれば、本当に良いものを知っているとは言い難いですよね。

今日のこの動画をご覧頂ければ、パテックフィリップがいかに凄いブランドなのかが分かるし、F.バウムガルトナーという会社がどれだけパテックに貢献してきたかが分かりますので、是非とも最後までお付き合いくださいませ。

 

F. バウムガルトナーとは?

高級時計の世界では、ムーブメントやデザインだけでなく、外装ケースのクオリティも時計全体の価値を大きく左右します。

その中でも、スイス・ジュネーヴの伝説的ケースメーカー「F. バウムガルトナー(F. Baumgartner SA)」は、1950年代から60年代にかけて、パテック フィリップの重要なモデルの外装製作(ケースのことですね)を担い、現代でも高く評価される存在です。

 

スイスでは、1934年に制定された貴金属法により、貴金属ケースを製造する業者には「ポワンソン・ド・メートル(Poinçon de Maître/責任マーク)」として、通称「キーナンバー(Key Number)」や「ハンマー番号(Hammer Number)」が割り当てられます。

ではこちらの画像をご覧ください⬇️

ハンマーヘッドのマークとジュネーブキーのマーク

今回のはバウムガルトナーのNo.2ではありませんが、左がラショードフォンで製造されたことを意味するハンマーヘッドのマークで右が、ジュネーブで製造されたことを意味する鍵のマークです。

写真は左がNo.121で右がNo.23ですが、簡単に解説すると、スイスの貴金属を扱う工房はキーナンバーってのが与えられて、バウムガルトナーには2番が割り当てられているってことですね。

話を戻しまして、

F. バウムガルトナーは、

  • ジュネーヴのキーナンバー2(Key No.2)

  • スイス全国共通のハンマー2(Hammer No.2)

ジュネーブとスイス共通の両方のシンボルに**「2」という番号**が与えられており、「キーナンバー2」および「ハンマーナンバー2」として存在していました


これは、工房がジュネーヴとラ・ショー・ド・フォン(ヌーシャテル州内)の両方でケースを製造していたからです。

ジュネーブで製造する会社には、鍵のマークのキーナンバーが割り振られて、ラショードフォンで製造する会社はハンマーのマークが割り振られていました。

スイスにはジュネーブとラショードフォンにいろんなケース製作工房があり、それらの工房はこのキーナンバーによってどこがどの工房かを管理していたんですね。

そして、基本的には、1つの工房に1個の刻印しか割り当てられませんので、バウムガルトナーは稀有なケースメーカーなのです。

これはバウムガルトナーが、ジュネーヴおよびスイス全土において信頼される高度な製造技術と実績を持っていたことを意味しています。

ではここからは、ガルトナーがパテックフィリップとどのような関係があったのか?

ということについて解説して参ります。

 


■ パテック フィリップとの深い関係

F. バウムガルトナーは、パテック フィリップがサプライヤーに常に高い要求を課し、新しい製造技術の導入を促す中で、その挑戦に応えてきたメーカーです

ですので、すべての工房がパテックフィリップの認める品質に応えることが出来たわけではなかったんですよ。

ガルトナーが手掛けた代表的なケースは以下の通りです。

1950年代の名機 Ref.2526 から初期の「エリプス」コレクション(1968年、1975年)に至るまで及びます。

ではまずは、 Ref.2526からの紹介です。

 

Ref.2526

ケースバウムガルトナー2526RRSc

 

当時のパテック・フィリップの広告によると、「このモデルでは、保護的な品質を損なうことなく、より薄い時計を得ることに焦点が当てられています...異なるケースと文字盤の構造がこれを達成し、その結果は非常に喜ばしいものです」。


Ref.2526のケースは、パテック・フィリップ初の自動巻きムーブメント12-600ATと2度焼きのエナメル文字盤を収めた重要なデザインでした。

1953年、最初の数百個のケースは、3ピースケースとして取り外し可能なベゼルと一緒に作られ、その後、ケースとベゼルが一体型になったツーピース・ケースとなり、裏蓋はねじ込み式となりました。

当初から、Ref.2526のすべてのケースには特徴的なダブルPリューズのデザインが施されており、これは当時としては新しい技術だった『自動巻きムーブメント』を意味するものでした。

この特徴的なリューズがあることで、カラトラバの古典的な時刻表示のみのデザインとして、すぐに差別化を図ることができました。

ガルトナーが製造したケースも含めて、Ref.2526は美しさと実用性を兼ね備えており、現在もなおコレクターから高く評価されています。




■ 複雑形状にも対応する技術力:ジルベール・アルバートとの協業

バウムガルトナーの技術力は、クラシックな円形ケースにとどまらず、パテックフィリップ社内にいたデザイナーであるジルベール・アルバート(Gilbert Albert)が手がけた前衛的で独創的なケースデザインにも存分に発揮されました。

Ref.782、785、799などに代表される「ゴルフウォッチ」シリーズでは、直線と曲線を組み合わせた彫刻的なデザインを、精密な金属加工とポリッシュ技術で完璧に実現しています。

これらの芸術的ケースは、時計という枠を超えた美術工芸品としても高く評価されています。

Ref.2526のエレガントで比較的シンプルなケーススタイルとは対照的に、F.バウムガルトナーはジルベール・アルバートにも選ばれたケースメーカーであり、特に782、785、799などの「ゴルフ」ポケットウォッチのリファレンスに選ばれています。

というか、ここまでの要求を実現できるのは、ガルトナーしかいなかったという表現の方が正しいでしょうね。

ケースバウムガルトナー799RS

挑戦的なケース:Ref. 799(ジルベール・アルベールがデザインし、F.バウムガルトナーが実現させた)

画像出典:モナコ・レジェンド

 

 

下のレディースモデルRef. 3442Jは、腕時計でのガルトナーが製造したケースの傑作です。

この時計のラグは、ベルトを包み込むように流れるロココ様式を彷彿とさせる曲線で、3次元の創造物となっています。

ラグの複雑なデザインは、幾何学的な文字盤と調和しています。

この複雑なデザインは、ギルバート・アルバートにインスパイアされたものと推測され、F.バウムガルトナーのようなケースメーカーでなければ、このような挑戦はできなかったでしょう。

ケースバウムガルトナー3442RS

ユニコーンケース:このRef. 3442は1961年にF.バウムガルトナーによって製作されました。

画像出典:コレクタビリティ

 

 エリプスと『バウムガルトナー』から『ファーブル・ペレ』へ

 ではここからは、エリプスケースについて解説して参ります。

1968年、パテック フィリップが発表した「ゴールデン・エリプス(Golden Ellipse)」は、単なる新作ではなく、時計デザインの歴史に一石を投じる革新でした。

その楕円形のフォルムは、黄金比(1:1.618)**に基づいて設計され、「完璧なバランス」「永遠の美」といった哲学的価値を内包するものでした。

このエリプスのデザインを手がけたのが、こちらもパテックフィリップのデザイナーであるジャン=ピエール・フラッティーニ(Jean-Pierre Frattini)という人物です。

この人は、機能性と美学の融合を掲げ、楕円形という挑戦的フォルムを洗練されたプロポーションで実現しました。

同じデザイナーのギルバート・アルバートとの師弟関係はなかったようですが、年代的にはフラッティーニの方が後輩に当たります。

アルバートが退社した後のエリプス路線(1968年以降)は、フラッティーニの設計思想とされており、アルバートの前衛性を洗練されたクラシックに落とし込む「次のステージ」を構築した人物とも言えます。

話を戻しまして、このような芸術性の高い設計思想を実際の製品へと落とし込むうえで、初期エリプスのケース製造を担ったのが、これまたF. バウムガルトナー(F. Baumgartner)でした。

エリプスの代表モデルであるRef.3546をはじめとする初期モデルの多くは、ガルトナーの精緻な技術によって実現されたものです。

しかし、1970年代中盤に入ると、エリプスシリーズの製造はファーブル・ペレ(Favre-Perret「ハンマーナンバー115」)へと引き継がれます。

この移行は、大量生産の時代に対応するための合理的な判断でもあり、またパテック フィリップが求める高精度・高品質の基準を保ち続けるための布石でもありました。

ファーブル・ペレも、高品質ケースメーカーで、ジュネーブ伝統の装飾技法や工程管理を継承しつつも、近代的な製造体制へと適応した次世代の工房でした。

ジャン=ピエール・フラッティーニの設計意図を忠実に再現しつつ、ブランドとしてのエリプスの安定供給を支える役割を果たしました。

ここまでの話をまとめると、アルバート時代にはガルトナーが対応し、フラッティーニ時代になると、ファーブル・ペレが対応しているように、デザイナーも工房も次世代に受け継がれているのが分かりますよね。

話を戻しまして、こうして見ると、「ゴールデン・エリプス」という一つのモデルには、デザイナー・クラフトマン・製造者という三位一体の美意識と技術継承が詰め込まれていたことが分かります。

アルバートの芸術的なデザイン、フラッティーニの幾何学的均整、そしてバウムガルトナーとファーブル・ペレの確かな手仕事。

そのいずれが欠けても、今日のエリプス像は存在し得なかったでしょう。

ケースバウムガルトナー3648RSc

1975年にF.バウムガルトナーによって製作されたレディースパテック エリプス ref. 1975年にF.バウムガルトナーによって製作された3648/1G。

画像出典:コレクタビリティ

 

 

最後に、ヴィンテージ市場において、「Key No.2」または「Hammer No.2」の刻印が入ったケースは、単なる製造印以上の意味を持ちます。

これらの刻印は、ジュネーヴの老舗工房による正統な品質保証であり、時計本体のプレミアム評価にもつながります。

F. バウムガルトナーの存在なくして、パテック フィリップが築いた“実用美の頂点”は実現しなかったかもしれません。

高度な薄型ケース構造から、革新的なシェイプデザインまで、彼らの功績は今もなお時計史に色濃く刻まれています。


 

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