カルティエの腕時計ってムーブメントも作れるマニュファクチュールだったっけ?
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この記事では、カルティエの腕時計ってムーブメントも作れるマニュファクチュールだったっけ?って内容で解説して参ります。
そもそもマニュファクチュールとは、自社でムーブメントを作れる会社のことを言うのですが、代表としてはロレックス、オメガ、ジャガールクルトなどが有名なマニュファクチュールブランドです。
ではカルティエはと言われると、自社で作ってるようなイメージはありませんよね。
この記事では、そんなカルティエ社のムーブメントの実情について詳しく解説して参ります。
カルティエのムーブメントの歴史
これまでの動画の中で再三に渡って、カルティエのムーブメントについて話をしてきたのですが、その内容というのは他社から提供してもらって腕時計を作ってきたという話でした。
その時代の最先端をいくムーブメント会社から提供して貰ってたのですが、それはジャガールクルト、フレデリックピゲ、ピアジェ、などが有名であり、スイスのほとんどのブランドが採用していたETA社のムーブメントも採用しています。
そんな感じで、カルティエといえば自社でムーブメントを作ることが出来ず、他社ムーブを乗せて腕時計を作るのが一般的な認識でした。
ただ、ムーブメントに対して姿勢が変わってくるのが、1998年に始まったCPCP(コレクション・プリヴェ・カルティエ・パリ)からです。
これは簡単に解説すると、カルティエの中のレクサスって感じで時計作りにめっちゃ気合い入れて作りました!ってやつです。
詳細についてはこちらの動画で詳しく解説しておりますので、気になる方はご覧ください↓
そんなCPCPなのですが、ここで搭載されているムーブメントは先ほど紹介した3社とジラールペルゴ、スヴェン・アンデルセンからも協力を仰ぎ、共同開発されたムーブメントとして搭載されています。
自社ムーブメントを全面に押し出してはいませんが、CPCPのシースルーモデルを見れば、Cartierのロゴしか見えません。
あまり知らない人からすれば、カルティエがムーブメントを作ってるように見えるかもしれませんね。
ただし、この頃はまだまだ自社で作ってると言うよりは、先ほど上げた会社のベースムーブに、カルティエのエッセンスを少し加えた状態のムーブメントって感じでした。
ここまでサラッと解説してきましたが、実はこの状況は、腕時計業界から見てもかなり特別なんですね。
1社、2社ならまだしも、複数の会社がカルティエのために技術提供しているわけですからね。
ではカルティエがなんでこんなことが出来たのか?
と言うのを解説して参ります。
スウォッチに対抗するリシュモン
そもそも何でカルティエに他社が、ムーブメントの技術を提供しまくるのか?
ここが不思議なポイントなので、深ぼって解説して参ります。
現在のカルティエはリシュモングループに種族していますが、リシュモンとはいろんな会社が実業家によって買収されたグループであり、初期のスタイルはカルティエ、ピアジェ、ジラールペルゴがスタートでした。
そして、そこから2000年にIWCやジャガールクルトなどを買収をしまくった結果、現在ではLVMHに次ぐ巨大グループになっているのです。
ただし、時計業界を見れば戦っていくメインの相手は、スウォッチグループということになります。
スウォッチのこれまでの動向を見ている限り、そこまで有名ではないけど技術力のあるエボーシュ(エボーシュとはムーブメントをメインに作る会社ですね)を有名ブランドの中に入れる傾向があります。
ちょっとスタイルは違いますが、豊田グループの中にDENSOやアイシンを取り込んでるような感じですね。
例えば、ブレゲの中にマニュファクチュールブレゲというのがあるのですが、これはブレゲの通常の3針ムーブも開発してますが、メインはクロノグラフムーブであり、それを専属としています。
しかし、名前はマニュファクチュールブレゲであっても元々はレマニアという会社であり、このレマニアが名前を変えているだけなのです。
レマニアもエボーシュとして、それまでに技術を培い買収もしてきたので、その時点でもう最強のエボーシュだったのですが知名度がないために、ブレゲの中に入ることで、ブレゲがもっと最強になりました。
ちなみに、同じスウォッチグループであるオメガの現行スピードマスターの裏スケモデルに搭載されているCal.3861も原型はレマニア社製です。
このチャンネルをご覧になってるほとんどの方は、レマニアに興味はないと思われますが気になる方はこちらの動画をご覧ください↓
有名ところでいえば、ETAがありますしこのETAは買収される前にバルジューを買収し、そのバルジューはヴィーナスを買収しています。
ちょっと意味不明だと思いますが、これらの2社はクロノグラフで最強のエボーシュでした。
こんな感じで、スウォッチはもはやムーブに関してはクオーツ以外的なしの状態にまで、上り詰めていたのです。
さらにここで追い討ちをかけて、攻め込んできます。
スウォッチグループは、2010年にETA社のムーブ供給停止宣言をするのです。
実際には10年間の猶予があって、2020年から社外に供給しないようになったのですが、2010年の時点で他のグループは自社でムーブを製造する必要性に迫られたのでした。
そこでリシュモンに話を戻し、カルティエの巨大化は、このリシュモングループとグループ内ムーブメント開発というのがキーワードになってきます。
リシュモンもブレゲレマニア連合や、最強ムーブを完成させてそれを別ブランドにも搭載させるという技を、見習ったのか分かりませんがそこに出てきたのがカルティエというわけです。
前述したとり、リシュモンの中にはこのように、ジャガールクルトやジラールペルゴ、ピアジェなどのムーブメントを作れる会社が所属していました。
こっちの連合も強者揃いですよね。
じゃあこの中から、どのブランドに技術を集約させるのか?
というのを考えて行った時に、カルティエが出てきたのでしょう。
ものづくりの実力としては、ジャガールクルトでも良さそうな気はしますが、多分当時はブランドの認知度はカルティエの方が上だったんでしょうね。
このようにライバルとの戦いに挑むように、誕生したカルティエムーブ技術集約体制ですが、カルティエ一社ではムーブメントを独自に開発するのは、まだまだ時間がかかっていたことでしょう。
オートオルロジェリーとは
ヤミヤミの実を食べたかのように、全てを吸収しまくったカルティエ社ですが2009年から私たちが自社で作り上げました!
という程で、2009年に最強のコレクション『オートオルロジェリー・コレクション』を展開します。
あ〜これねって!
って感じで、見たことあるけど値段が高すぎて眼中になかったわ!
って方も多いことでしょうが、俺ら本気出したらこれくらい余裕で作れますから・・・・ってのをアピールするためのコレクションです。
ただし、スケルトンにしただけでかっこいいと思うなよ!って思ってる人たちを論破するために、超高等テクニックも使用されています。
例えば、2021年に発売されたロトンド ドゥ カルティエ アストロミステリアスなんかは、本当に機械パーツが浮いてるように作られているので、腕時計だけどここまで出来るのかぁ・・・・
と感心させられます。
オートオルロジェリーはほとんどの場合で、ケース径40mmを超えるダイマックスで作られるので、30mm台が出てきてくれたら嬉しいなぁって思いますね。
そんな感じで、こっちはどっちかっていうともう技術力をアピールするためのラインです。
こんな何千万円する時計を誰もが買えるわけがないので、普及ラインのムーブもしっかり作り上げることになります。
自動巻ムーブメントCal.1904 & Cal 1847MC
普及ラインは2010年からスタートします。
2010年にカリブル ドゥ カルティエ、2013年にタンクMC、2015年にクレ ドゥ カルティエが誕生します。
この3つのモデルが、カルティエの自社ムーブ搭載の始まりになります。
ちなみにタンクMCのMCは『マニュファクチュール・カルティエ』の略であり、自社でムーブメント作ってます!ってのをもう名前の中に入れ込んできています。
話を戻しまして、まずは前半のカリブルと、タンクMCを見てみましょう。
これらに共通していることは、キョダイマックスであることとメンズラインしか存在しないことです。
年代的にも『キョダイマックスが正義だ!』
の価値観がてっぺんを極めてた時代なので、カリブルはケース径42mm、タンクMCは33mmとラウンドでもレクタンギュラーでもなかなかのデカさです。
カリブルは2015年にMMの38mm径が出ましたが、これでもまぁダイマックスですよね。
そして、これらに搭載されていたムーブメントなのですがCal.1904です。
ムーブの直径は25.6mm、厚み4.0mmですので、ムーブ自体は大きくないんですよね。
そして48時間のパワーリザーブですから、まぁ基準は満たしていると言えるでしょう。
ムーブのことを話しすぎると飽きが来てしまうと思われるので、ここまでにしておきますが非磁性の脱進機を搭載しているので、簡単な磁気では精度は狂わないようになっています。
実際のところはどうなのかはわかりませんが、時代の流れがキョダイマックスすぎる時計を求めなくなってしまったことと、カルティエのブランドイメージと違うことが原因なのかこれらの2モデルは生産終了となります。
そして次に誕生したのが、クレ ドゥ カルティエです。
このモデルには、レディースのSMも展開されていてSM,MM,LMから選ぶことが出来ました。
こっちは別の方向で、俺たちの自動巻を見よ!
というのを伝える戦略で、普通ならレディースモデルはクオーツを搭載させるのが一般的なカルティエですが、このクレにはレディースであるSMにも自動巻を載せてあるのです。
そしてクレに搭載されているムーブメントはCal.1847MCです。
ムーブの直径はCal.1904と同じ25.6mmで、厚みがちょっとだけ薄くなって3.765mmになっています。
パワーリザーブは42時間と、このサイズにしては十分といったところでしょう。
これでレディースにも乗せることが出来るようになったんでしょうね。
残念ながらこのクレも廃盤になってしまったのですが、これら3モデルはカルティエは自動巻を自社で作ることが出来るのだ!
というアピールの役割を充分に発揮して、その役目を終えていくのでした。
しかし、ここで作られたムーブメントは、もちろん現在のモデルにも搭載されています。
例えば、タンクマストのXLサイズや、サントスには1847MCが搭載してあります。
手巻きムーブメント Cal.1917MC
現行のタンクルイカルティエは2018年に誕生しているものですが、このタンクルイには手巻きCal.1917MCが搭載されています。
自社で作りました!
のアピールはそれほどなかったように思われますが、もしかしたらジャガールクルトのキャリバーがベースにあるために、大きな声でいえなかったのかもしれません。
ムーブの直径は12.95ミリ、厚さ2.9ミリなのでかなり薄く仕上げてありますね。
パワーリザーブは38時間で、手巻きですのでこれくらいあれば充分でしょう。
そして、こちらのムーブメントはタンクルイ以外にベニュワール、ライン外ではトノーにも搭載されています。
このムーブメントのキャリバーナンバーも興味深く1917という数字は、タンクが誕生した年の年号です。
初代のタンクは1917年に誕生してるんですね。
よって、その初代タンクに敬意を込めてCal.1917になっているそうです。
また、手巻き自動巻ムーブメントともにデフォルトの状態でコートトジュネーブやコートトジュネーブの装飾にさらに斜めのラインを施してあるのも見逃せないポイントでしょう。
このように、手巻き、自動巻の両方をカバー出来るようになったカルティエですが、なんとこのムーブメントを他社に提供するという凄技に出始めます。
ではここからは、キャリバーを提供するカルティエを見ていきましょう。
マニュファクチュールとしてのカルティエ
元々リシュモンの初期メンバーではありましたが、さまざまなブランドから技術を吸収することによって、リシュモンの中心的な存在になりました。
そして、ここで作ったムーブメントはなんと他社にも提供され、実際に搭載して世に出されています。
他社とは言っても、リシュモングループ内の別のブランドですが、ヴァシュロン、パネライ、ジラールには同じムーブが搭載してあります。
正確に表現すると、ベースの設計がCal.1847MCで他のブランドが少し改良を加えてるので、カルティエのCal.1847MCが乗ってるとの記載はありませんが、まぁ結局はエボーシュの役割を果たしていると言えるでしょう。
では実際のムーブを見ていきましょう。
ボームメルシエ Cal.BM12 “BAUMATIC”/パネライ Cal.P900
こちら2社のムーブメントは、カルティエのCal.1847MCがベースにあり、それらを自社でチューニングして自社ブランドの時計に搭載してあります。
ヴァシュロン・コンスタンタン Cal.1326
こちらはヴァシュロン・コンスタンタンのCal.1326ですが、こちらカルティエのCal.1904がベースに自社でチューニングを行い作られています。
このように、スウォッチの最強ムーブを作ってそれを他のブランドに供給するスタイルを見事にパクったリシュモングループですが、それをブランドイメージを崩すことなく実現できているわけですから、やはりリシュモンは凄いでしょう。
といった感じで、カルティエのムーブメントの実情について解説して参りましたが、今回の動画でカルティエのイメージは3段階くらい飛躍したのではないかと思っています。
多分今の日本の認知度としては、まだまだ宝飾品のブランドであり時計作りは二の次って感じだと思うのですが、実際にはもうムーブメントを作ってそれをベースとして他社もムーブメントを作るというところにまできています。
そしてそれは、カルティエ単体ではスウォッチに勝てなかったところが、リシュモンというグループで戦うことで、カルティエを筆頭とした腕時計連合が構築されたということです。
世間のカルティエの認識は、まだまだ2000年ちょうど頃で止まってると思われますが、今回の動画を通してカルティエというブランドのアップデートに繋がったのであれば幸いです。