ヴィンテージウォッチを「一生モノ」にするために。オーバーホールの現実と費用。
こんにちは、ベルモントルの妹尾です。
憧れのヴィンテージ・カルティエを手に入れた瞬間、それはゴールではなく、時計が共に歩むスタートです。
しかし、多くの方が「手に入れて満足」してしまい、肝心のメンテナンスを後回しにしているのが現状です。
実は、どんなに外見が綺麗でも、5年も経てば内部のオイルは乾き、見えないところで部品の摩耗は確実に進んでいます。
今日は、カルティエを本当の意味で「一生モノ」にするために避けては通れない、オーバーホールの現実と費用について森さんから聞いた話を交えながらお話しして参ります。
修理はメーカーに出すべきか、研磨で価値は下がるのか。
10年、20年先まで輝かせるための「最初の一歩」を、一緒に踏み出しましょう。
「買って終わり」にしない。 一生モノにするための最初の一歩。
憧れの腕時計、カルティエに限らず全ての腕時計と言って良いんでしょうが、それを手に入れたとき、その美しさに目を奪われて「これでようやく手に入った」と完結してしまいがちです。
ですが、本当の意味でその時計を「自分の人生のパートナー」にできるかどうかは、手に入れた後の「最初の一歩」で決まると私は考えています。
ヴィンテージウォッチ専門店でご購入されれば、そこはまずクリアしてるはずですが、今回の動画は、初めてご覧になる方も多いと思いますので、質屋やオークションでご購入された場合のことについて、まずは話していきます。
ヴィンテージウォッチというのは、数十年という時間を生き抜いてきた精密機械です。
現行品のように「買ってから数年は何もしなくて大丈夫」というわけにはいきません。
まず最初の一歩として大切なのは、その時計が今、どんな健康状態にあるのかを正確に把握することです。
多くの方が陥りがちなのが、「動いているから大丈夫」という思い込みです。
時計は健気なもので、内部の油が切れて部品が悲鳴を上げていても、無理をすれば動いてしまいます。
特にロレックスは、中身が激ヤバな状態であっても、しっかり精度が出てしまいます。
例え、それがおよそ30年やってない個体であってもです。
しかし、その「無理」をさせている期間が長ければ長いほど、いざ修理に出したときには手遅れになり、莫大な費用がかかったり、最悪の場合は二度と元に戻らなくなったりすることもあります。
一生モノにするための最初の一歩とは、信頼できる「主治医」を見つけることです。
そして、その時計の履歴を知ることです。
ベルモントルで扱う個体は、私と森さんが責任を持って納品前に整備を済ませていますが、もし他店やオークションで購入されたのであれば、まずは一度、専門家に中を見てもらうことを強くお勧めします。
これは単なる「出費」ではありません。
その時計が持つ「歴史」を次の世代へ繋ぐための、ポジティブな投資です。
「この時計と一緒に、これから20年歩んでいくんだ」という意識を持つこと。
そのマインドセットの変化こそが、単なる中古品を「一生モノの宝物」へと昇華させる、最も重要なステップなのです。
なぜ「ベルモントル」は納品前整備にこだわるのか。
「ヴィンテージウォッチは壊れそうで怖い」
「維持費がいくらかかるか不安」。
そんな声を耳にするたびに、私の考えとだいぶ乖離があるなぁと実感するのと同時に、自分も最初はそんな気持ちだったなぁと思い出します。
特に初めて購入する方とかって、まぁまぁ心配だと思うんですがそれは中がどうなってるか分からないからなんですね。
というわけで、弊社ではその中がどうなってるのか?
さらにその先の最初の状態から、修理が完了するところまでの部分をYouTubeでアップしております。
それは、ベルモントルで扱うすべての時計において、「納品前整備(オーバーホール)」をご覧頂くことで安心して頂きたいからです。
というわけで、どんな感じで腕時計が修理されているのか?
をご覧になりたい方は、これらの動画で1時間を使って詳しく解説しておりますので、是非ともご覧くださいませ。
では話を戻しまして、なぜ、わざわざ手間とコストをかけてまで、販売前に中身をバラバラにするのかって話ですがその理由は、お客様に届いた瞬間が、その時計にとって「最高の状態」であってほしいからです。
世の中には、外装だけを磨いて「動作確認済み」として安く販売されているヴィンテージ時計も少なくありません。
しかし、それは爆弾を抱えたまま走っているようなものです。
特に私がおすすめしているサントスカレは、構造上外装パーツがぶっ壊れてるパターンが結構ありますので、是非ともこのサントスの動画だけでもご覧くださいませ。
話を戻しまして私たちのショップでは、外見の美しさはもちろんのこと、内部のムーブメントを一度すべて分解し、洗浄し、新しいオイルを差し直して、歩度調整(精度の追い込み)を行います。
なぜこれをするのか、って話ですがただ単純にそうやってお渡しした方が、こちら側もスッキリするからですね。
この機械であれば、ここまでは許容だよね。
みたいな感じで、ムーブメントによって性格が違います。
もっと言ってしまえば、40〜50年経過してるムーブメントは個体によってばらつきがあるので、それぞれのベストパフォーマンスを発揮させることが出来ると嬉しいですよね。
オークションやフリマアプリで安く買って、後から高額な修理代に泣く……というのは、ギャンブルに勝てるかどうかだと考えています。
その個体が綺麗な状態であれば、おそらく安く良いものを手にすることができた喜びを実感して頂けるはずです。
しかし、ギャンブルはいつかは外すことが決まっています。
そんな悲しいハズレを、1発目で引いてしまったら2度と腕時計なんて欲しいと思わないし、思っても絶対にヴィンテージという選択肢にはならないでしょう。
そうなって欲しくないので、ベルモントルで扱う時計は基本的にはオーバーホールをして販売しております。
「ベルモントルで買った時計なら、明日から安心して仕事に着けていける」。
そう思っていただけることこそが、私たちのブランド価値です。
リューズを巻き込んだ際に、時を刻む音が力強く響き、針がスムーズに動く。その感動を届けるために、私たちは見えない内部のネジ一本、オイルの一滴にまでこだわり続けます。
ですが、これから言わなくても良いことを話します。
正直な話、出戻りが0ではありません。
というのも、人間がやってますので、職人のその日の体調や気分でミスも発生します。
それはネジを仮締めしたままで組み立てしまうことですね。
そうなると、時間の経過とともネジが緩んでそれが歯車の間に挟まって、動かなくなってしまうことがあります。
他にも
動きが悪くなった・・・
動く時と動かない時がある・・・
動くけどすぐ止まる・・・
こんな症状が発生したら心配になりますよね。
これらには全部原因がありますし、ヴィンテージウォッチ屋さんがなんで保証をつけてるかというと、声に出しては言わないけど、大体の場合、何かしら不具合が発生することを織り込んでるからなんです。
もちろん弊社でも、そういうのがあるから1年保証です。
そういった話もオーバーホールの動画の中で話してますので、是非気になった動画をご覧んください。
5年前のオイルは乾いている。 見えない内部で起きている「摩耗」の正体。
時計という精密機械において、最も恐ろしいのは「動いているから大丈夫」という油断です。
新品のロレックスであれば、10年はしなくていいと言われています。
現行モデルの時計であれば、平均して5年はやらなくて大丈夫ってニュアンスだと思います。
ここからヴィンテージウォッチの話ですが一般的に、機械式時計のメンテナンス周期が3年から5年と言われるのには、明確な根拠があります。
それは、内部を支える潤滑油(オイル)の「寿命」です。
時計の内部では、1日に何万回、1年で数千万回もの振動が繰り返されています。
その激しい摩擦を支えているのは、肉眼では確認しづらいほど微量な、わずか一滴のオイルです。
しかし、このオイルは5年も経てば、酸化して乾いたり、揮発したりして、本来の役割を果たせなくなります。
オイルが切れた状態で歯車が回り続けることは、潤滑剤のないエンジンを無理やり回しているのと同じ状況です。
本当に恐ろしいのは、オイルが乾くと、残った微細な金属粉が劣化したオイルと混ざり合い、それが「研磨剤」のような役割を果たしてしまうことです。
つまり、時計が時を刻むたびに、自らの部品をガリガリと削り取っていくわけです。
これを私たちは「摩耗」と呼びますが、この現象は外からは一切見えません。
時間がズレ始めたり、時計が止まったりして異変に気づいた時には、すでに重要なパーツが再起不能なほど削れていることがほとんどです。
「5年前にオーバーホール済み」という言葉は、ヴィンテージ市場ではよく安心材料として使われますが、実はこれ、プロの視点では「すでに次のメンテナンスが必要な時期」に入っているという合図でもあります。
5年という月日は、オイルがその使命を終えるのに十分すぎる時間なのです。
目に見えるケースの傷は磨けば消せますが、目に見えない内部の摩耗は、取り返しのつかない部品交換という痛い出費に直結します。
手遅れになる前に、定期的に中身をケアしてあげることが、結果的にその時計を最も安く、そして健やかに守り抜く唯一の方法なのです。
補足説明ですが、ロレックスが最強なのが機密性が優れすぎてるからです。
機密性が優れすぎてると、そもそも油が乾きにくいので長期間、油が働き続けてくれます。
さらにしっかり精度が出ます。
ですが、やはりオーバーホールを長期間やってないと大事になってる場合がほとんどなので、定期的にやることはマストです。
では次に、皆様がめっちゃ気になってる街の時計屋さんに出すのか、メーカーに出すのが良いのか?について解説します。
メーカー修理 vs 街の凄腕職人。 どちらに預けるのが正解か?
時計を預ける先を選ぶのは、自分の主治医を選ぶようなものです。
まず「メーカー修理」ですね。
これは言わば「王道」の選択です。
最大のメリットは、純正パーツの保証と、メーカーがお墨付きを与えたという絶大な安心感です。
将来、手放すことを考えた際も、メーカーの修理証明書は強力な武器になります。
しかし、ヴィンテージ愛好家にとって一つ大きな落とし穴があります。
それは、ものすごく高額になることです。
腕時計の値段が毎年20万円アップしてることは理解してても、その裏で修理費が上昇してることはあまりみんな気にしません。
ですが、昔と比べてみてもめっちゃ高くなっています。
また、結構パーツを交換したがります。
それはブランドとしての哲学が、綺麗なものにしてお返しするってのがあるから仕方ないのですが、パーツ交換とかになると、これまた莫大な請求金額になってしまいます。
対して「街の凄腕職人」を見てみましょう。
街の時計やさんは「共感」と「小回り」にあります。
持ち主が大切にしているパティナ(経年変化)を理解し、あえて古いパーツを洗浄して再利用する技術などは熟練の職人にしかできない芸当です。
弊社でお願いしている職人は、依頼する前に色々と話し合った結果、私と価値観が近しいので森さんにお願いしております。
分かりやすくいうと、出来るだけ既存パーツを残して修理をしていこう。ってことですね。
何より費用も抑えられる傾向にあり、「直接顔を見て話せる」という安心感は代えがたいものです。
まぁ、私は実際に隣にいて修理の風景を見てるんですが、よくぞこんな緊張感しかない作業出来るなぁ。
と尊敬しかありませんね。
例えば、先週に出したロレックスのオイパペの文字盤なんて、あんなの変えが効かない文字盤なんですよね。
だから、もしあれを壊したら大事なんですよ。
(まぁ依頼者は私なので別に攻めたりはしませんが)
でもそう言ったことも含めて、修理をしてくれるわけなので本当に職人技って見てて素晴らしいですし、それを裏付ける技術を持ってるから安心して任せられるんですよね。
これらを含めて私の考えはこうです。
ブランドとしてのステータスや完璧な保証を重視するならメーカーへ。
でも、その時計が刻んできた「歴史」や「ヴィンテージ特有の雰囲気」を守り抜きたいなら、信頼できる腕利き職人を主治医に持つべきです。
ベルモントルが信頼を置く職人たちは、後者のマインドを持つプロフェッショナルばかりです。
気になる「費用の現実」。 腕時計のオーバーホールは高い?
オーバーホールを検討する際、一番気になるのはやはり「お金」の話ですよね。
「ヴィンテージを買ったはいいけれど、維持費で破産するのでは?」
そんな不安を解消するために、詳細にお話ししますね。
まずブランドによって、金額が大きく違いますので大枠として捉えて頂きたいんですが、大体6〜10万円かなぁって感じですね。
その金額を払えば、メーカーで修理して貰った箔と安心感を手にすることが出来ます。
では弊社の場合の話ですが、機械式の場合、33000円からのスタートになりますね。
ブランドやムーブメントの複雑性によって変わったり、前回のオーバーホールから時間が経過しすぎて、口数が大きく追加されるのであれば、そこから追加になります。
もちろん、最初の見積もり金額から上ぶれる場合は、そこで作業を一旦中断して、ここがこうなってるからこうしないといけません。
その際には、この金額上乗せになりますが、問題ないでしょうか?
と事前に伺って、そこで了承を得てから再開します。
だからこそ、先ほどお話しした「オイルが乾く前=パーツが削れる前」の定期的なメンテナンスが、結果的にトータルコストを一番安く抑える賢い方法なんですね。
3年使ってオーバーホールするってのを前提に考えると、1年の使用量は11000円です。
年間で分割したら、そこまで大きな金額には感じないんじゃないでしょうか。
維持費を「削るべき出費」と考えるか、健康に戻す投資と考えるか。
この考えの切り替えができれば、ヴィンテージウォッチとの生活はもっと安心なものになりますよね。
外装研磨(ポリッシュ)の落とし穴。 原型を出来るだけ保存する方法
外装研磨、いわゆるポリッシュは、一見すると傷だらけの時計を新品のように蘇らせる「魔法」のように思えます。
しかし、ここにはヴィンテージ愛好家が最も警戒すべき、そしてプロが最も神経を使う「落とし穴」が潜んでいます。
それは当たり前なんですが、研磨とは本質的に「貴金属を削り取る行為」であるということです。
腕時計が持つ美しさの核心は、その完璧な「面」と「エッジ」にあります。
エッジってのは角のことですね。
例えばサントスカレのベゼルや、ロレックスのシャープなラグ。
これらが放つ凛とした空気感は、鋭い角が立っているからこそ成立するものです。
しかし、安易に「傷を消してピカピカにしてほしい」とオーダーし、過度な研磨を繰り返してしまうと、本来シャープであるべき角が丸く削れ、ケース全体が痩せ細ってしまいます。
私たちはこの状態を「時計が痩せる」と表現しますが、一度失われた金属の肉厚やエッジの鋭さは、二度と元には戻りません。
ベルモントルが推奨するのは、傷をすべて消し去ることではなく、前述した通り「原型を崩さない」最小限のケアです。
感覚的には、薄皮一枚くらいの表層の部分だけを少し触る程度です。
深い傷は、その時計が刻んできた「歴史」として受け入れ、全体のフォルムを維持することを最優先にします。
というのも、その研磨も『今回の1回だけ』この気持ちでやっていくと、100年後の時計は激痩せしてしまってることが想像できるからです。
傷はあったとしても、出来るだけ元の状態をホールドしておきたいなぁって思っています。
実は、ヴィンテージ市場において最も高く評価されるのは、小傷一つない個体ではなく、製造当時の力強いエッジがそのまま残っている個体なのです。
もし修理に出す際は、ぜひ職人にこう伝えてください。
「エッジを立てたまま、軽く表面を整える程度で」と。
ピカピカの輝きよりも、当時のデザイナーが意図した「造形の正解」を守ることこそが、腕時計の気品を次世代へ正しく引き継ぐための、最も正しい選択だと考えております。
ですが、やはり女性の方はそう言った傷の味にあまり良い印象をお持ちでない方も多くいらっしゃると思います。
ですので、そう言った時にはもちろんご対応させて頂きますので、お気軽にお申し付けくださいませ。
弊社のスタンスは基本的には、先ほど説明した理由から、深い傷までをも無くさないといけないって考えではないということをお伝えしたかっただけですね。
部品がない!? ヴィンテージ特有のリスクと、長く使い続けるための管理法。
ヴィンテージウォッチを着用していく上で、最も避けたい、そして恐ろしい言葉があります。
それは、修理に出した際にメーカーから告げられる「パーツ供給終了のため、修理不能」という宣告です。
ロレックスではよく聞く話ですよね。
40年以上前の腕時計ともなれば、当時の純正パーツがメーカーの倉庫から消えていることは、決して珍しいことではありません。
しかし、ここで絶望する必要はありません。
大切なのは、その「リスク」を正しく理解し、賢く付き合っていく術を知ることです。
まず、私たちプロの世界には「ドナー」という考え方があります。
同じ型番の、外装はボロボロだけれど中身は生きている個体を確保し、そこから心臓部のパーツを移植する。
あるいは、腕利きの職人が、手に入らなくなった小さなネジや歯車を一から旋盤で削り出して作ってしまうことさえあります。
ちなみに、ロレックスの代表ムーブメントであるCal.1560、1570やカルティエのヴィンテージはETAなので、Cal.2671や78のパーツはまだ余裕で手に入ります。
ロレックスは昔よりパーツの値段は上がっていますが、まだ大丈夫ですね。
もちろん、交換が必要になるパーツは、そこで作業を一旦停止させて、ここがこうなってますがどうしましょうか?
と連絡を入れます。
ですが、一番の管理法は「部品を壊さない、交換させない」という予防に尽きます。
ヴィンテージウォッチにとって最大の敵は、衝撃と振動そして何より「水」です。
40年前の時計に現代の防水性能を期待してはいけません。
湿気が内部に入り、文字盤や極細の針、そして代わりのきかないムーブメントのパーツが錆びてしまえば、それは文字通り「修復不可能」なダメージになります。
「雨の日は着けない」「水回りに置かない」。
この一見当たり前のような小さな気遣いが、数十年後のパーツの生存率を劇的に変えます。
部品がないことを嘆くのではなく、今ある部品をいかに摩耗させず、錆びさせずに守り抜くか。
ここが分かっていれば、ヴィンテージウォッチであってもお孫さんの代まで使うことが出来ます。
最後に弊社からのメッセージですが、「メンテナンス」を単なる出費と考えず、5年に一度、次の5年を共に歩むための「自分への再投資」だと捉えてみてください。
オイルが乾き、部品が悲鳴を上げる前にケアをすること。それが結果的に、愛機の寿命を延ばし、資産価値を守る唯一の近道になります。
自分が気に入ってる腕時計に手をかけることは、その時計が歩んできた「歴史」を慈しみ、自分の人生の一部として受け入れる儀式のようなものです。
手間がかかるからこそ愛着は深まり、デザインが好きで買ったその時計はいつしか、心からそう思える本当の「一生モノ」へと育っていきます。
ベルモントルは、これからも最高の技術で視聴者様と伴走し続けます。