6万円のRoyal Popより、50年前のヴィンテージオーデマピゲが物作りとして素晴らしい理由
こんにちは、ベルモントルの妹尾です。
本日の動画では、「6万円のRoyal Popより、50年前のヴィンテージオーデマピゲが物作りとして素晴らしい理由」という内容で解説して参ります。
Royal Popの動画をいくつかアップしてきたんですが、今日の動画がですね、面白いと思っていただけたら、ぜひハイプを押していただけると嬉しいです。
話を戻しまして、それらの動画に入れて頂いたコメントを読んでいてひとつ気になることがありました。
「ヴィンテージのAPって雰囲気いいですよね」「APはRoyal Oakだけじゃなくて、ドレスラインの美しさにも目を向けてほしい」という声が、自然に出てきていたんですね。
Royal Popをきっかけに、APというブランドそのものに興味が向いている人が一定数いるのと同時に、本物の腕時計を魅力をご理解されてる方が一定数いて、とても嬉しくなりました。
今日はそういう方々に向けて、APの話をしっかりして参ります。
Royal PopとヴィンテージのAPを比較する、という話ではないです。
そもそも比較できる土俵が違いますからね。
でも、Royal Popがきっかけになって「オーデマピゲってどんなブランドなんだろう?」という問いが生まれたなら、その問いに答える動画は作れると思っていてですね、今日はその話です。
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それでは話を進めて参ります。
Royal Popが世界に広めたもの
まず事実として、Royal Popが果たした成果を私なりに整理します。
昨日の動画で話した通り、ドバイのモールが深夜3時に封鎖されて、ムンバイでは開店すらできなかったし、タイムズスクエアでは前夜から泊まり込みの行列でした。
日本でも銀座に500人以上が並んで、捌けたのはその2割以下でした。
転売価格はメルカリで15〜25万円、定価の3〜4倍で動いていて、これだけのことが、6万円の時計で起きた。
ざっとまとめるとこんな感じですよね。
転売が起きる!ってところまでは繋がっていませんが、ちょっと前のアイフォンみたいな熱狂が起きていたのは明確な事実でしょう。
そしてこれはSwatchにとっては大成功です。
Moon Swatchのブームが落ち着いた後に、グループ外とのコラボで再点火できました。
APにとっても、広告費として考えたら破格のコストで世界規模の認知拡大ができました。
実際、これまでAPを意識したことがなかった若い世代が、世界中でオーデマピゲというブランドの名前を知ることになりました。
ただ、ここで少し立ち止まって考えたいことがあります。
Royal Popで世界に広まったものって、具体的に何だったのか。
ということですね。
私なりに考えたんですが、世界に広まったものはおそらく
八角形のベゼル。
タペストリーのダイヤル。
APのロゴ。
この3つです。
となると、それはデザインの「記号」であって、APというブランドの中身ではありません。
「記号は確かに広まったけども、中身はまだ誰も説明していない。」
ここに終着してるのではなかろうかと考えています。
コメントで「本物買えないからコレ買った感が出るのが微妙」という声が複数来ていました。
その感覚は正直だと思っていて、「記号だけを買った」という状態への違和感が、そこに出ていると思います。
「買ったけど心が満たされなかった」という声も来ていました。
それはRoyal Popのクオリティがどうとかいう話じゃなくて、記号だけを手に入れても、その背景にある文脈は手に入らないからだと私は思っています。
では、APの文脈とは何か。
ここが本質になりますので、次は「APをAPたらしめているものの話」という内容で解説して参ります。
APをAPたらしめているものの話
1972年の話をします。
オーデマ・ピゲがジェラルド・ジェンタというデザイナーに依頼して、Royal Oakが生まれた年です。
皆様ご存知だと思いますが、ジェラルドジェンタは腕時計デザイナーの中でも非常に優秀で他にも、パテックのノーチラス、オメガの2代目コンステレーション、日本ではあまり知られていませんが、ユニバーサルジュネーブのポールルーターをデザインしている方です。
当時の高級時計の常識は、ドレスウォッチはゴールドケースで、薄くて、フォーマルなものでした。
そこにジェンタはステンレスケースで、八角形のベゼルで、スポーティな時計を持ち込んだのです。
しかも、ここが凄いのが値段はゴールドウォッチと同等かそれ以上という内容でした。
社内は当たり前ですが、業界全体が「これは絶対に売れない」と言いました。
それでも発売したのです!
この賭けに出た背景は、ただ斬新な腕時計を作ってやろう!って話ではなく当時の時代背景も大きく影響しています。
当時は日本のSEIKOからクオーツムーブメントが誕生し、その制度の高さから機械式時計を作る既存のスイスブランドは、非常に厳しい舵取りが要求されていました。
日本の技術に対抗して、クオーツを作るブランド。
これはピアジェやパテック、ロレックスもそうでした。
しかし、いきなり出てきたクオーツに真正面から挑んでも戦えるわけもなく、この時にスイスの腕時計ブランドの8割が倒産したと言われています。
では、オーデマピゲを始めとした雲上ブランドはどんな舵取りを生き残ったかというと、前述した通りロイヤルオークやノーチラスを生み出し、新しいラグジュアリースポーツウォッチという市場を作って、クオーツとの真正面対決を避けたのです。
その賭けが成功した結果として、今のRoyal Oakがあります。
私がRoyal Oakを見るとき、この歴史を感じます。
単に人気ブランドの人気モデルとしてではなく、一つの賭けが成功した物語を帯びた時計として見ると、みんなが持ってるロイヤルオークではなく、ブランドを存続させた救世主として捉えることが出来るのです。
そして、もう一つ話しておきたいのが、ムーブメントとケースの出自です。
APは昔から、ケースの製造を外部の専門工房に委託していました。
ブレラ工房、アルシドギヨー工房、それぞれの工房がケースを作り、APがムーブメントを載せて仕上げます。
工房ごとにキーナンバーが振られていて、そのナンバーを読むとどこが作ったケースかがわかるようになっています。
ムーブメントはJLCベースのものが多く、APとヴァシュロン・コンスタンタンにのみ供給されていたキャリバーも存在します。
このモノづくりからも分かる通り、ロイヤルポップの6万円のバイオセラミックのポケットウォッチには出来ない話です。
まぁ、1本への極め方が違うし、そもそもどういう意図で作られているかが別なので、同じ土俵に立たせてはいけないんですけどね。
では次に、その文脈が最も色濃く残っているのがヴィンテージオーデマピゲ!という内容で解説して参ります。
その文脈が最も色濃く残っているのがヴィンテージオーデマピゲ
コメントで「APはRoyal Oakが強すぎてブランド全体がマッシブな方向に偏ってしまった、ヴィンテージのドレスラインのシンプルな美しさにも目を向けてほしい」という声がありました。
これ、私も全く同じことを思っています。
現行のオーデマピゲはRoyal Oakへの一本打法が非常に強いです。
前述した通り、私はロイヤルオークをブランドの救世主として認識してるので、とても好きなモデルではありますが、やはり客観的に見て、今のオーデマピゲはブランド=ロイヤルオークになっている感は歪めません。
それ自体は戦略として理解できますが、APが1970年代に作っていたドレスウォッチのラインは、全然違う顔をしていました。
薄い。
静か。
主張しない。
でも手元に置いた瞬間にオーラがあるんです。
ケースのシャープさが全然違います。
当時の職人が手で仕上げたエッジは、今の機械研磨とは明らかに違う切れ方をしています。
文字盤とケースの整合性、針の仕上げ、ブレスとの一体感。
そういうところを一つひとつ見ていくと、50年前に作られた時計が今も手元にあるということの意味が出てくるわけですよ。
Royal Oakのウェイトリストで何年も待つより、ヴィンテージのオーデマピゲを丁寧に探す方が、APの文脈により深く触れられると私は思っています。
この動画をここまでご覧になってる方はですね、おそらく腕時計を教養とか文化的な側面で見ている、知識人だと考えております。
そんな方には、ヴィンテージのオーデマピゲはぴったりです。
今手元に1970年代のAPが3本あります。
どれもRoyal Oakではなく、当時のドレスラインのモデルです。
ではここからはそれらを順番に紹介しますね。
1本目。ホワイトゴールドのレクタンギュラー、ブレス一体型です。
1本目はホワイトゴールドのレクタンギュラー、ブレス一体型です。
文字盤はマットな深いネイビーで、写真で見るとブラックに見えるくらい落ち着いた色味です。
針とインデックスだけが鏡面仕上げになっていて、その対比が静かに効いています。
ケースはブレラ工房の製造で、ブレスと一体型になっています。
ムーブメントはCal.2090。JLCのCal.895をベースにした信頼性の高いキャリバーです。
私がこれを見たとき、最初に目がいったのはブレスのコンディションでした。
ヴィンテージのブレス一体型は、ブレス側の状態で印象が全然変わります。これはそこが非常に良かった。「渋い」という言葉が一番近い。静かだけど、手元に来た瞬間に空気が変わる時計です。
2本目。1970年代のホワイトゴールド、TVスクリーン型です。
横長のクッションケースにブラックダイヤル。ムーブメントはCal.K2001、JLC Cal.818ベースです。ケースの製造はAlcide Guyot工房、ラ・ショード・フォンの工房です。
これはRoyal Oakが登場する前のAPのクラシックラインです。八角形の強さとは全然違う顔をしている。置いた瞬間に静かに存在感を放つ、という言い方が一番しっくりきます。
Royal Popの騒ぎを見た後にこれを手に取ると、APというブランドの振れ幅がよくわかります。同じ会社が作っているとは思えないくらい、別の美学が宿っている。
3本目。1970年代のホワイトゴールド、レクタンギュラー、3Pダイヤモンドインデックスです。
ブラックダイヤルの3時・6時・9時の位置にダイヤモンドが入っています。12時位置にはAPのロゴ。
この時計で特筆すべきはケースの薄さで、約1.85mmです。
搭載しているCal.2001はJLC Cal.818ベースで、先ほど話したAPとヴァシュロン・コンスタンタンにのみ供給されていたキャリバーです。純正のホワイトゴールド尾錠も付属しています。
手首に乗せたときの薄さと軽さは、現行の時計ではなかなか体験できないものです。これも「渋い」という言葉が近いんですが、1本目とは渋さの種類が違う。ダイヤモンドが入っているのに華美じゃなくて、全体として非常に品がある。
エンディング
今日の話をまとめると、Royal Popがやったことは「APという記号を世界に広めた」ことだと思っています。
それ自体は悪いことじゃないし、6万円前後のロイヤルポップに果たしてもらうべき役割にも限界があるので、私があーだこーだ言っても意味がありません。
でもその記号の裏側に何があるかは、Royal Popでは触れられない物語やものづくりがあるのも事実です。
1972年の賭け、工房の刻印、ムーブメントの出自、50年経っても手元にある事実。
そういうものを含めてAPを見たいという方には、ヴィンテージという入り口があります。
腕時計にはいろんな役割があります。
成功者としてのシンボルや、社会的ステータスなどなど、腕時計には関係のない要素も含まれていますが、それを含めてのブランドです。
オーデマピゲというブランドでありながらも、落ち着きや上品な腕時計を手にしたいと考えている方には、ヴィンテージのオーデマピゲは最適解となってくれることでしょう。
またこういう話をしていきますので、よろしければチャンネル登録もお願いします。
