なぜカルティエはムーブメントよりケースデザインが記憶に残るのか?
こんにちは、ベルモントルの妹尾です。
本日の動画では「なぜカルティエはムーブメントよりケースデザインが記憶に残るのか?」という内容で解説して参ります。
腕時計が好きな方であれば、ムーブメントを見て腕時計を選ぶこともあると思います。
自社製なのか、どんな構造なのか、手巻きなのか自動巻きなのかクオーツなのか。などなどですね。
こうした部分は高級腕時計を語る上で非常に重要です。
ところがカルティエの場合はちょっと違います。
例えばタンクを見た時に、最初に思い浮かぶのは中に入っているキャリバーじゃなくて、長方形のケースやローマンインデックスを見て、「タンクだ」と認識します。
サントスも同じでスクエアケースとビスを見ただけで、カルティエの造形だと分かります。
もちろんカルティエも、現在は自社製ムーブメントにかなり力を入れています。
ただ、100年以上にわたる腕時計の歴史を振り返ると、カルティエというブランドを世の人々の記憶に残してきた中心には、常に「形」があったように思います。
今回は、なぜカルティエはムーブメントよりケースデザインが記憶に残るのか。
そして歴代のカルティエがどのようなムーブメントを使ってきたのかも含めてベルモントルの妹尾さんと一緒に見ていきましょう。
カルティエは腕時計を「丸いケース」から考えてこなかった
腕時計の世界では、丸形ケースが圧倒的に多いですよね。
その中で文字盤を変えたり、ベゼルを変えたり、針を変えたりすることで、それぞれのブランドらしさを作っています。
ですがカルティエを見ると、かなり違います。
タンク。
サントス。
パンテール。
トノー。
フランセーズ。
ベニュワール。
パシャまで含めても、モデル名を聞いただけでケースの形をある程度思い浮かべられる腕時計が非常に多いんですね。
つまりカルティエの場合、ブランドロゴを見せる前に、ケースそのものがブランドを説明しているんですよね。
ここで腕時計の記憶について考えてみると、意外とスペックでは残りません。
「この腕時計は何ミリで、このムーブメントが入っています」と言われても、しばらくすると忘れてしまうことがあります。
というかブランドごとにそれぞれのムーブメントナンバーがあるので、それらを覚えるのはよっぽどそれに思い入れがないとできないことですからね。
ところが形はかなり残りますよね。
タンクの縦長のケース。とか
サントスの四角いケース。とか
ベニュワールの楕円形。などなどですね。
一度見れば、次に似た形を見た時にも「あの腕時計だ」と思い出しやすいです。
カルティエは、この視覚的な記憶を非常に強く作ってきたブランドだと思います。
しかも面白いのは、単に奇抜な形を作っているわけではないことです。
変わった形を一度作って終わりではなく、何十年、場合によっては100年以上にわたって、その基本形を何度も作り直しています。
サイズが多少変わっても、素材が変わってもムーブメントが変わっても、それでも形を見れば、同じ系譜の腕時計だと分かります。
だからカルティエの場合、「どんな機械が入っているか?」より前に、「どんな形なのか?」がブランドそのものになっているんですね。
では次に、カルティエは、ケースだけではなく「文字盤まで含めた一つの形」を作っている!と言う内容で解説して参ります。
カルティエは、ケースだけではなく「文字盤まで含めた一つの形」を作っている
ただ、カルティエの腕時計が記憶に残る理由は、ケースが四角いからというだけではありません。
ケースと文字盤の関係が非常に整っていることにもあります。
タンクを例にすると分かりやすいと思います。
基本的なスタイルは長方形のケースに大きなローマンインデックス、ミニッツレールウェイ、ブルースチール針、そしてカボションが付いたリューズです。
これらを一つずつ見ると、それほど複雑な要素ではありません。
でも全部を組み合わせた瞬間に、タンクになります。
じゃあこれがラウンド型でも同じように見えるのかを想像してみましょう。
タンクの文字盤を、そのまま一般的な丸形ケースの中に入れたとします。
ローマ数字もブルースチール針も残っています。
それだと、おそらく今のタンクとはまったく違った腕時計に見えると思います。
ちなみに、それはロンドってモデルなのですがロンドがカルティエの代表モデルという認識を持ってる人は少ないですよね。
サントスも同じです。
文字盤の外周とケースの形が呼応していて、その外側にベゼルがあり、そこにビスが入っています。
さらにブレスレットモデルであれば、そのビスがブレスレットにも続いています。
ケースだけで終わらず、腕時計全体に一つのデザインが続いています。
だから、ムーブメントの型番を知らなくても、その腕時計を覚えられるんですよ。
ここはカルティエと、ムーブメントや機能を中心に語られるブランドとの大きな違いです。
例えばクロノグラフであれば、積算計は何個か?とか、どれくらいの時間計測できるのか?とか、どんなキャリバーなのかという機能がモデルの性格を大きく左右します。
ところがタンクの場合、2針でも3針でも、手巻きでもクオーツでも、まずタンクという形が先にあります。
もちろん中身によって商品としての価値は変わりますが、私たちの目に最初に入ってくる「タンクらしさ」は、ムーブメントではなくケースと文字盤の組み合わせから作られているわけで、これが、カルティエが非常に強いデザインを持っている理由だと思いますね。
カルティエは、なぜ新しい形を作り続けなくても成立するのか?
カルティエを見ていると、気がつくのが「新しいケースデザインを次々に作らなくても、ブランドとして成立している」ということです。
これはロレックスも同じですよね。
例えばタンクは1917年に誕生していますし、サントスも原型まで遡れば100年以上の歴史があります。
普通に考えれば、これだけ長く同じデザインを使っていれば、どこかで古く見えてもおかしくありません。
ところが現在でもタンクやサントスは、カルティエを代表するモデルとして販売されています。
では、なぜそれが可能なのかって話なのですが、
タンクやサントスの土台が、長方形や正方形という幾何学的な形でできているからだと考えています。
幾何学の形は、特定の時代の流行から生まれたものではないので、時間が経っても古びることがありません。
だからこそカルティエは、その輪郭だけは守り続け、それ以外の部分を時代に合わせて少しずつ更新してくることができたんですよね。
つまり、形を変えないのではなく、形以外の部分を変え続けてきたといえます。
例えばケースサイズは、その時代の好みに合わせて大きくなったり、小さくなったりしてきました。
素材もゴールドだけでなく、ステンレスやヴェルメイユへと幅を広げ、ブレスレットや文字盤の仕様も、時代ごとに姿を変えています。
そしてムーブメントも時代によって変わってきました。
ヴィンテージのカルティエを見ると、比較的量産されたモデルではETA系のムーブメントが使われる一方で、上位モデルではジャガー・ルクルト、フレデリック・ピゲ、ピアジェなどの高級ムーブメントが採用されたモデルもあります。
そして現在では、すべてではありませんが、1847 MCなどカルティエが自社で開発・製造するムーブメントを搭載するモデルも増えています。
つまり100年という時間の中で、腕時計の中身はかなり変わっているんですよね。
それでもタンクを見ればタンクだと分かるし、アメリカンを見ればアメリカンだと分かります。
ここがカルティエの強さだと思います。
普通は商品を新しく見せようとすると、デザインそのものを大きく変えたくなります。
でもカルティエの場合は逆で、すでに強い形を持っているので、その形を捨てる必要がありません。
むしろ基本形を残しながら、サイズや素材、機械、細かな仕上げを更新していくことで、昔から知っているカルティエらしさを残しながら、新しい商品として成立させることができます。
これは単に「昔のデザインを使い回している」という話ではありません。
何十年経っても使えるだけの完成度を持った形を、すでにブランドの中に持っているということです。
だからカルティエの場合、新しい形を作り続けること自体がブランドの強さではありません。
一目でカルティエだと分かる形を持ち、それを時代に合わせて更新し続けられるところに、他の腕時計ブランドとは少し違うカルティエの強さがあるんだと考えております。
では次に、カルティエの形は、身に着けた方の姿と一緒に記憶されてきた!という内容で解説して参ります。
カルティエの形は、身に着けた方の姿と一緒に記憶されてきた
形を守り続けてきたことで、カルティエにはもう一つ、大きな財産が生まれました。
それは、その形を身に着けてきた方々の物語です。
まずサントスは、1904年、飛行機がまだ珍しかった時代に、冒険家のサントスデュモンからルイカルティエに相談が入り、彼のために生まれた腕時計というのはすでにご存知だと思います。
当時は懐中時計が当たり前で、操縦中にポケットから取り出して時間を確かめるのは、とても大変なことでした。
そこで、手首を見るだけで時間が分かるようにと作られたのが、サントスの始まりといわれています。
つまりあの四角いケースには、空を飛ぶことが夢だった時代の空気が、最初から刻まれているといえます。
タンクで分かりやすいのは、アメリカのケネディ大統領の奥様、ジャクリーン・ケネディです。
当時は日本でも、その装いが上品なためにファッションのお手本として、雑誌などで紹介されていたといわれています。
ジャクリーンさんは贈り物として受け取ったゴールドのタンクを、何十年にもわたって身に着けていたそうです。
1960年代の白黒写真を見ると、彼女の手首には、今のタンクとほとんど変わらない長方形が写っているんですよね。
そのタンクは2017年にオークションにかけられ、約4,200万円という、タンクとしては当時の最高額で落札されています。
ショーケースに並んでいるタンクと同じ形が、半世紀以上前の大統領夫人の手首にもあったことを考えると、あの長方形が少し違って見えてきたんじゃないでしょうか。
ここで大切なのは、こうした物語が今も生きているのは、形が変わっていないからだということです。
もしタンクの形が時代ごとに大きく変わっていたら、ジャクリーンさんが着けていた腕時計と、今ショーケースに並ぶ腕時計は、まったく別の物になっていたはずです。
形が変わらないからこそ、そこに重ねられてきた物語も、途切れずに今へとつながってきたんですよね。
よってその形は、100年以上かけて積み重ねられてきた記憶も、一緒に選んでいるといえます。
腕時計というのは本来、値段やブランド名だけでは、その一本が本当に納得できるかどうかは、決まらないんですよね。
その一本が持つ背景まで見えてきたときに、初めて「これだ」と思える自分の一本に出会えるんですよね。
店舗は表参道駅から徒歩2分の場所にあるので、雨の日でもほとんど濡れずにお越し頂けます。
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