ロイヤルオークが揺らげば、APも揺らぐ。ロレックスとの決定的な違い
こんにちは、ベルモントルの妹尾です。
本日は「ロイヤルオークが揺らげば、APも揺らぐ。ロレックスとの決定的な違い」という内容でお話しして参ります。
この前ですね、こちらのオメガが5位転落。2026年最新の腕時計ブランド売上高ランキング!という動画を出しましたが、この中で非常に似ている戦略をとってるブランドが2社あったので、もうちょっと調べてみたら面白いことが分かったので、この動画を作りました。
正規店に行っても、なかなか手に入らない一本というのは、腕時計の世界に限らず、誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。
そしてそれらを代表するのが、今回の主人公のロレックスのスポーツモデル、そしてオーデマ ピゲのロイヤルオーク、この2つは、まさにその代表格なんですよね。
ただ、これは単なる偶然や、たまたま人気が集中してしまった結果ではありません。
実は、ブランド側が意図的に選び取っている、明確な経営戦略なんです。
本日は、なぜこの2つのブランドが、あえて「買いにくい」という状況を作り出しているのか、その理由を掘り下げていきます。
ベルモントルでは価値のあるヴィンテージウォッチを販売しております。
腕時計を選ぶとき、多くの場合、ブランドのロゴや、いくらで買えるかというところから入ると思います。
ただ、値段やブランド名だけでは、その一本に本当に納得できるかどうかは、決まらないんですよね。
腕時計の世界はみんなの正解が自分には当てはまらないことがほとんどです。
その個体がどんな時代に、どんな職人の手を経て作られてきたのか。
こうした背景まで見えてきたときに、初めて『これだ』と思える自分の一本に出会えるのだと思います。
ヴィンテージ腕時計は、知名度という点では、決して目立つ存在ではありません。
ですが、その分、『なぜこの一本を選んだのか』を、ご自身の言葉で語れる一本になるはずです。
弊社では、そうした背景や佇まいも含めて腕時計を選びたい方に向けて、公式LINEで一般公開前の新着商品や入荷予定品をご案内しています。
こうした選び方に共感してくださる方は、概要欄から公式LINEのお友達登録をよろしくお願い致します。
それでは話を進めて参ります。
供給を絞ると、なぜブランド価値が上がるのか?
まず、そもそもなぜ「供給を絞る」ことが、ブランド価値を高めることに繋がるのか、っていう基本的な仕組みから解説します。
これは、経済学の世界では非常にシンプルな原則に基づいています。
欲しいと思う方の数に対して、手に入る本数が少なければ少ないほど、その一本の"手に入れにくさ"そのものが、価値の一部になっていくんですよね。
大事なところなので繰り返し言いますが、この『手に入れにくさ"そのものが価値』となっております。
これは、高級腕時計の世界に限った話ではありません。
限定何足の運動靴、エルメスのバッグ、予約が取れないレストラン、当選確率の低いコンサートチケット、こうしたものすべてに共通する原理なんです。
人は、簡単に手に入るものよりも、手に入れるまでに苦労したものの方に、より強い愛着と価値を感じる傾向があるんですよね。
高級腕時計ブランドの多くは、この原則を意図的に経営戦略として取り入れています。
なぜなら、いつも言ってますが腕時計というものは、実用性という観点だけで見れば、スマートフォンや電波時計の方が、圧倒的に正確に時間を教えてくれるからです。
つまり高級腕時計が売っているのは、時間を知るための機能ではなく、「これを持っているのは自分だけだ」という所有の喜びであり、「これを手に入れるまでの物語」そのものなんですよね。
この物語を作り出す最も効果的な方法の一つが、あえて供給を需要よりも少なく保つ、という戦略なんです。
もし仮に、ロレックスやロイヤルオークが、欲しい方全員にすぐ行き渡るほどの本数を市場に流していたら、どうなるでしょうか。
おそらく、今ほどの熱狂的な人気や、二次流通市場でのプレミア価格は生まれていなかったはずです。
供給を絞ることは、単に「作れないから絞っている」のではなく、「あえて絞ることで、ブランドの価値そのものを守り、育てている」という、非常に高度な経営判断なんですよね。
次の見出しでは、この原則を踏まえた上で、ロレックスが実際にどのような形で"絞り方"を実践しているのか、具体的に見ていきます。
ロレックスの場合、"絞り方"の実態
それでは、ロレックスが実際にどのような形で供給をコントロールしているのか、具体的に見ていきます。
まず前提として押さえておきたいのが、ロレックスは年間およそ120万本という、業界でも屈指の生産本数を誇るブランドだという点です。
これだけ聞くと、「そんなに作っているなら、品薄になるはずがないのでは」と思われるかもしれません。
ところが実際には、正規店に行っても、人気モデルにはすぐに手が届かないという状況が、長年続いているんですよね。
このカラクリを解くヒントが、実はロレックスの中で最も売れているコレクションが何かというデータにあります。
意外に思われるかもしれませんが、ロレックスの中で最も販売本数が多く、市場でのパフォーマンスも良いのは、サブマリーナでもデイトナでもなく、デイトジャストというコレクションなんですよね。
まぁ、だいぶ上がってしまいましたがエントリーモデルの36mmが120万円前後という、ロレックスの中では比較的手が届きやすい部類の一本です。
つまりロレックスは、ブランド全体として見れば、決して"買えないブランド"ではないんです。
デイトジャストのような、話題性は控えめでも堅実な人気を持つモデルは、比較的スムーズに正規店で購入できるケースが多いんですよね。
一方で、デイトナや、ペプシの愛称で知られるGMTマスターのような、特定の人気リファレンスについては、正規代理店への割当本数そのものが、意図的に絞られていると見られています。
こうした人気リファレンスは、発売されるとすぐに完売し、正規価格では手に入らず、二次流通市場でプレミア価格がついた状態でしか出回らない、という状況が常態化しているんですよね。
つまりロレックスの"品薄感"というのは、ブランド全体に均等にかかっているわけではなく、一部の話題性の高いリファレンスに、意図的に需要を集中させることで作り出されている、という構造なんです。
これは、全体の生産量を多く保ちながら、その中の一部だけを極端に希少化させるという、非常に賢いな戦略だと言えます。
では次の見出しでは、これとは全く違う仕組みで希少性を生み出している、ロイヤルオークの実態について見ていきます。
ロイヤルオークの場合、"絞り方"の実態
それでは、ロイヤルオークが、どのような仕組みで希少性を作り出しているのか、見ていきます。
先ほどのロレックスとは対照的に、オーデマ ピゲの年間生産本数は、およそ53,000本にとどまります。
これは、ロレックスの生産本数のおよそ4.6%、20分の1以下という規模なんですよね。
つまりAPの場合、そもそも会社全体の生産能力自体が、ロレックスとは全く違う土俵にあるんです。
規模感に違いはあるのでしょうが、トヨタかフェラーリってのをイメージして頂くとわかりやすいと思いますね。
さらに興味深いのが、この限られた生産本数の中身です。
専門メディアの分析によりますと、APの現在のカタログに存在する全197のリファレンスのうち、ロイヤルオーク・ロイヤルオーク オフショア・ロイヤルオーク コンセプトという、いわば"ロイヤルオーク・ファミリー"だけで165リファレンス、実に84%を占めているんですよね。
一方で、ロイヤルオーク以外の新機軸として2019年に発表されたコード11.59は、わずか32リファレンス、16%にとどまっています。
このコード11.59が発表された当時のエピソードも、実は本音がポロリしています。
Bloombergの報道によりますと、AP自身が「将来的には、コード11.59がブランド全体の売上構成比の、少なくとも20%を占めることを期待している」と発表していたんですよね。
これは裏を返せば、発表当時、APはブランド全体の8割以上が、事実上ロイヤルオーク一色だったということを、自ら認めていたようなものなんです。
業界メディアWatchGuysも、「2010年代までに、ロイヤルオークとその派生モデルが、APの生産の大部分を占めるようになり、事実上"一コレクション企業"になっていた」と表現しているんですよね。
つまりロイヤルオークの希少性は、ロレックスのような「一部のリファレンスへの意図的な需要集中」ではなく、**「ブランド全体の生産構造そのものが、最初から少数精鋭であり、その大部分が単一のデザインファミリーに集中している」**という、より根本的な構造から生まれているんです。
ロイヤルオークというデザインは、八角形のベゼルに施される、タペストリー模様の文字盤や、緻密な面取り仕上げなど、機械だけでは再現しきれない、熟練職人の手作業に頼る工程が多いことでも知られています。
つまり、需要をコントロールする以前に、そもそも大量生産に向かない構造を持つ一本だという、製造上の事情も、この希少性を後押ししているんですよね。
では次の見出しでは、こうした2つの異なる"絞り方"が、なぜどちらも逆効果にならず、むしろブランドの人気を支え続けているのか、その心理的な仕組みについて見ていきます。
なぜこの戦略は"逆効果"にならないのか?
というわけで、ここからが本題になってくるんですけれども、こういう売り方はけしからん!というふうに世間的には言われていますし、そういう気持ちになるのも理解しております。
なんですが、これというのはみんなが買うからこうなるんですよね。
だから、こういう現象を作っているのは我々なんですよ。
ここを理解した上で、次の内容を聞いて頂ければより腑に落ちると思いますので。
それでは、こうした2つの異なる"絞り方"が、なぜどちらも逆効果にならず、むしろブランドの人気を支え続けているのか見ていきましょう。
まず、心理学的な観点からお伝えします。
人は、手に入らないものに対して、実際の価値以上の魅力を感じてしまう傾向があるんですよね。
これは「希少性の原理」と呼ばれる、非常によく知られた心理現象です。
正規店で「今すぐには入荷未定です」と言われた瞬間、その一本への欲求は、むしろ強まってしまうという方は、決して少なくありません。
「手に入らない」という体験そのものが、「それだけの価値があるに違いない」という確信に変わっていくんですよね。
つまり、ロレックスもロイヤルオークも、この人間心理の働きを、結果的にせよ意図的にせよ、うまく味方につけているということなんです。
ただ、ここで一つ、大切な視点を付け加えたいんですよね。
この戦略は、決してリスクがないわけではありません。
コード11.59の事例が、その象徴的なケースです。
APは、ロイヤルオーク一本足打法から脱却するために、7年もの開発期間をかけて、この新しいコレクションを世に送り出しました。
ですが、以前の動画でご紹介したコメントにもあった通り、多くのお客様の間では、「ロイヤルオークを買うための、いわば整理券のような一本」という、厳しい評価が根強く残っているんですよね。
これは、供給を絞りすぎた結果、ブランドの中に新しい柱を育てる余地そのものが、狭められてしまったという側面があるのかもしれません。
ロイヤルオークがあまりに強く、あまりに希少であり続けたことで、皮肉にも、それ以外のラインが正当に評価されにくい土壌ができてしまった、ということなんですよね。
要するに、ないとは思いますがロイヤルオークのブランド力が何かしらの要因で低下した時に、それはそのままダイレクトにオーデマピゲの低下を意味しますよね。
一方でロレックスは、デイトジャストのような"安定して手に入る"モデルを持ちながら、デイトナやペプシのような"話題性の高い"モデルで希少性を演出するという、いわば両立型の戦略を取っています。
この違いが、長期的に見た時のブランドとしての"安定感"の差にも、繋がってくる可能性があるんですよね。
次のベルモントルの視点では、こうした2つの希少性の作られ方の違いを踏まえて、私たちがヴィンテージ腕時計を仕入れる時に、どのような考え方を大切にしているのかをお伝えします。
ベルモントルの視点
ここまで、ロレックスとロイヤルオーク、それぞれ全く違う仕組みで希少性を作り出しているということをお伝えしてきました。
これは、あくまで力のあるブランドだからこそ選べる戦略なんですよね。
生産本数そのものをコントロールできる立場にあるからこそ、需要と供給のバランスを、意図的に操作することができるわけです。
一方で、私たちベルモントルのようなヴィンテージ腕時計を扱う立場は、全く違う理屈で"厳選"をしています。
私たちは、新しく時計を作り出すことはできません。
すでに市場に存在する個体の中から、状態が良く、背景に納得できる物語を持つ一本を、一つひとつ見極めて仕入れているんですよね。
つまり、メーカーの「意図的な希少性」とは違い、私たちが向き合っているのは「時間が生み出した希少性」なんです。
同じ"手に入りにくさ"であっても、その成り立ちは全く違います。
だからこそ、私たちが在庫としてお預かりする一本一本には、単なる品薄感とは違う、その個体だけが持つ歴史と物語が宿っているんですよね。
供給を絞るという戦略の裏側を知った上で、改めてご自身の一本を選んでいただけたら幸いです。